相続コラム
相続税の基礎控除とは何?控除額の計算方法を解説
相続税の基礎控除とは、相続する財産のうち、一定金額まで相続税が控除される仕組みのことです。
相続税の基礎控除額によって、受け取る相続財産にかかる相続税の支払いや申告が不要になるケースもあることから、必ずおさえておくべき概念のひとつといえるでしょう。
本記事では、相続税の基礎控除について解説したのち、控除額の計算方法や相続税の節税方法についてお伝えします。
相続税の基礎控除とは何?
相続税の基礎控除とは、相続する財産のうち、一定金額までは相続税が控除される仕組みのことです。
相続する財産が基礎控除の範囲内であれば課税はされませんが、それを超えた分に対しては相続税が生じます。この相続税の基礎控除は誰もが利用できる制度であるものの、基礎控除額は法定相続人の人数によって決まるため、人それぞれ異なることが特徴です。
正しく納税する必要があるため、相続が発生した段階で相続する財産の総額と法定相続人の人数、基礎控除額についてしっかりと把握しておくことが大切です。
法定相続人の数え方と注意点
法定相続人とは、民法の定めに従って遺産を相続できる人のことであり、第一順位から第三順位までが以下のように決められています。
第一順位:(被相続人に子どもがいる場合)配偶者と子ども
第二順位:(被相続人に子どもや孫がいない場合)父母や祖父母、配偶者
第三順位:(子どもや孫、父母や祖父母のいない場合)兄弟姉妹と配偶者
ただし、以下のケースでは計算方法に気を付けなくてはなりません。
養子の場合
被相続人が養子縁組を行っていた場合、養子も法定相続人としてカウントされますが、実子の有無によって制限が設けられている点に注意が必要です。
- 被相続人に実子がいる:法定相続人となる養子の数は1人まで
- 被相続人に実子がいない:法定相続人となる養子の数は2人まで
ただし、以下のいずれかの要件に当てはまる場合には養子であっても実子とみなされます。
- 1被相続人との特別養子縁組によって被相続人の養子となっている場合
- 2被相続人と配偶者の実子で被相続人の養子となっている場合
- 3被相続人と配偶者が結婚する前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった場合
- 4被相続人の実子、養子または直系卑属が既に亡くなっているか、相続権を失ったことにより、その子どもなどに代わって相続人となった直系卑属である場合。(直系卑属とは子どもや孫のことを指す)
基礎控除の計算を行う際は、これらを考慮したうえで行うことが必要です。
代襲相続の場合
代襲相続とは、本来相続人となる人が既に亡くなっている場合や、何らかの理由で相続権を失っている場合に、その人の子が代わりに相続することです。
相続放棄の場合
相続放棄をした際、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も、すべてを引き継ぐ必要がなくなります。
しかし、それはあくまで制度上の話であって、相続税の計算においては「相続放棄がなかったものとして」扱われることをおさえておきましょう。つまり、法定相続人が3人いて、そのうち1人が相続放棄をした場合であっても、計算上は3人として計算されます。そのため、相続放棄をしたからといって相続税額が増えるようなことはありません。
相続税の基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求められます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額
下記に、相続人の人数に応じた基礎控除額を一覧にしてまとめてみました。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
相続人の数が増えるほど基礎控除額が増え、相続税の節税効果が高いことがわかります。
相続税の対象になる財産について
ここでは相続税の対象になる財産と、ならない財産について解説します。
対象になる財産
相続税の課税対象となる財産は、現金・預貯金、株式や債権等の有価証券、土地・建物等の不動産、書画骨董等亡くなった人が所有していた財産です。また、そのほかにも生命保険金や死亡退職金などのみなし財産、相続開始前3年以内に贈与した財産、相続時精算課税制度の適用となる贈与財産なども対象となります。
ただし、生命保険金や退職金には非課税限度額が設けられており、一定額の範囲であれば相続税が課税されることはありません。
■生命保険金、退職金に対する非課税限度額の計算式
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
対象にならない財産
相続税のかからない財産として、以下のような項目が挙げられます。
- 墓地、墓石、仏壇、仏具、神棚など
- お悔みとして支給される弔慰金や花輪代
- 事故などの損害賠償金
- 国や地方公共団体などへ寄附した財産
相続税計算の流れと申告方法
相続税計算の流れと、申告方法についてもそれぞれ解説します。
相続税計算の流れ
遺言や遺産分割協議によって財産を受け取る人が確定したら課税対象額を計算し、控除を差し引いた上で、各相続人の相続税納付額を計算しましょう。
相続税の計算は主に以下の手順に沿って行われます。
- 1遺産総額を計算する
- 2遺産の総額から基礎控除額を引く
- 3課税遺産総額の計算をする
- 4相続税の総額を計算する
- 5相続税の総額を実際の相続割合で分けなおす
- 6各相続人の相続税納付額を計算する
なお、それぞれの項目について詳しくは下記の記事で解説しているのであわせて参考にしてください。
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相続税の申告方法
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、住所地を管轄する税務署で行う必要があります。相続税申告の際は、申告書に加えさまざまな必要書類を揃えておかなければならないため、納付期限に間に合うようにしっかりと準備しておきましょう。
【相続税申告について】
提出場所:被相続人の住所地を管轄する税務署
提出・申請方法:窓口または郵送による提出(e-Taxも可)
提出期限:被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内
手数料:なし
窓口受付時間:8時30分から17時まで※
※税務署の閉庁日(土曜日・日曜日・祝日など)は除く
また、相続税は納税義務者が申告によって納付する税金であり、住民税などと違って納税通知書が送られてくることはありません。給与から源泉徴収されることもないため、申告が必要かどうかは自身で判断することになります。なお、申告に必要な申告書は最寄りの税務署や国税庁のホームページで入手可能です。(※令和元年10月以降、e-Taxで電子申告ができるようになりました。)
申告期限に間に合わない場合
相続人間で遺産分割協議が整わなかったり、相続財産の査定に時間がかかったりしたことで、相続税の申告期限に間に合わないケースがあります。申告期限に間に合わなそうな場合、ケース別に以下のような対策を講じることが可能です。
遺産分割協議がまとまらないとき
遺産分割協議がまとまりそうにないときは、「申告期限後3年以内の分割見込み書」を提出することで、遺産分割の申請期限を3年延長することができます。また、この申請書は相続税の申請期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出しなければなりません。
遺産の金額が確定しないとき
相続税の申告期限内に概算で申告し、税額を多めに申告しておきましょう。きちんと相続税が確定した後、「修正申告」あるいは「更正の請求」を行い、税額の調整を行うことになります。
参考:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁
相続税に関する注意点
ここでは相続税に関する注意点を2つ、紹介します。
相続税の配偶者控除は申告が必要となる
相続税の配偶者控除は正式に「配偶者の税額の軽減」といい、被相続人の配偶者を対象とした相続税の負担軽減に関する特例のことです。相続税は財産評価額から基礎控除額を引いてプラスになった場合に課税されますが、配偶者控除が適用されれば以下のどちらか多い金額まで非課税として扱われます。
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分相当額
わかりやすくいえば、仮に相続財産が1億6,000万円を上回った場合でも配偶者の法定相続分までであれば、相続税は課税されないことになります。非常に便利な制度である一方、主に以下3つの条件を満たさなければなりません。
- 法律上の配偶者であること
- 相続税の申告書を提出すること
- 遺産分割が確定していること
中でも特に注意したいのが、相続税申告書を税務署に提出しなければ制度自体が利用できない点です。具体的には、被相続人の住所を管轄する税務署に相続税の申告書を提出しなければならないことに加え、「被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内」に手続きをする必要があります。
なお、申告書を提出する前に法定相続人全員で遺産分割協議を済ませておくなど、一連の遺産相続手続きを完了させておくようにしましょう。申告が必要な理由としては、配偶者控除が適用される金額は、配偶者が実際に受け取った財産額をもとに算出されるため、相続税の申告書がなければ判断できないことがあげられます。
二次相続で相続税がかかる場合がある
二次相続とは、被相続人の配偶者が亡くなり、被相続人から配偶者へ相続された財産を配偶者の相続人が相続することです。一次相続と比較すると、以下のような違いがあります。
一次相続:夫が亡くなり、妻と子が相続人となる
二次相続:夫が亡くなった後に妻も亡くなってしまい、子が相続人となる
また、二次相続では一次相続で適用されていた控除が二次相続で適用されないケースがあるので注意が必要です。具体的には、相続税の計算上、「基礎控除額」と「配偶者控除(配偶者の税額軽減)の有無」が異なります。基礎控除額は法定相続人の人数で決まるため、一次相続の後で養子縁組などが新たに生じない限り、二次相続では基礎控除額が少なくなってしまうでしょう。
また、一次相続では先述した「配偶者控除」が適用される一方で、二次相続では配偶者に係る控除が適用対象外となることから、一次相続に比べて相続税が多くなる傾向にあります。
相続税対策をする方法
具体的な相続税対策としては以下の2つが挙げられます。
生前贈与
まず一つ目の対策として、生前贈与が挙げられます。生前贈与とは、贈与税の非課税制度や相続時精算課税制度などを活用し、相続が発生する前に財産を贈与することです。
生前贈与を行う人を「贈与者」、受取人を「受贈者」と呼びます。受贈者は生前贈与を受ける際に以下のいずれかを選択する必要があります。
- 暦年課税
- 相続時精算課税制度
まず、暦年課税制度では贈与を受ける人1人当たり年間110万円の基礎控除があり、この控除は毎年適用できます。長期にわたって多くの人に多数の贈与を行う場合、より高い効果を得られるでしょう。また、110万円までの贈与であれば税務署へ申告する必要もありません。
次に、相続時精算課税制度は60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子どもや孫へ贈与する場合に選択することができます。(相続時精算課税制度を選択しなかった場合は暦年課税を選択したものとみなされる)相続時精算課税制度を選択した場合、贈与を受けた時点では一定額まで贈与税がかかりませんが、贈与を受けた額が相続時に相続財産に加算され、相続税が算出される点に注意が必要です。
相続時精算課税制度を選択する場合、贈与を受ける側(受贈者)が税務署へ申告しなければなりません。また、一度相続時精算課税制度を選ぶと、暦年課税に戻すことができないので気をつけましょう。
相続税がかからない生命保険を新規で契約する
被保険者が生前に保険料を負担し、生命保険金を受け取ると相続税が課税されてしまいます。しかし、受取人を相続人とすることで「500万円×法定相続人の数」まで相続税を非課税とすることが可能です。注意点として、保険料負担者と被保険者を相続人とするほか、受取人を相続人としないと非課税枠の適用とならない点があげられます。また、相続を放棄してしまうと非課税枠も利用できなくなってしまうので注意しましょう。
相続税に関する相談はどこにするべき?
相続税に関する手続きは非常に煩雑であるため、自身で行う際に不安点やトラブルが生じるケースも少なくありません。相続税の申告に誤りがあると、多額の追徴課税が課される恐れがあるため、正確な申告が求められます。また、相続に関するトラブルをそのままにしておくと、後に大事になってしまうケースも見受けられるため、早い段階で相談しておくことがおすすめです。
主な相談先として、以下の3つが挙げられます。
- 公的機関(市役所、税務署など)
- 銀行
- 専門家(弁護士、司法書士、税理士など)
相談先は内容によって異なるため、それぞれの特徴を把握したうえで、状況に応じて適切な場所へ相談することが大切です。
公的機関(市役所、税務署など)
公的機関の窓口は無料であるケースが多く、手軽に相談しやすいといったメリットがあります。主に以下のケースで悩んでいる場合に活用するとよいでしょう。
・相続の手続きに関して相談をしたい
・相続について基本的な知識を得たい
・相続税の申告手続きに関して教えてもらいたい
相談窓口で対応してくれる相談員のほかにも、弁護士などの資格を持った専門家からアドバイスがもらえる相談会を開催していることもあります。急に相続が発生して、何から始めたらよいかわからないといった人におすすめです。
銀行
被相続人の預金の取扱いについて相談したい場合は、銀行が適しています。たとえば、被相続人の預金がどのくらいあるのかわからないケースなど、相続する際に把握しておかなくてはならない情報を得ることが可能です。
専門家(弁護士、司法書士、税理士など)
相続トラブルが発生している場合や相続に関して何らかの問題を抱えている場合は、相続に強い専門家に相談するのが最も効率的です。専門家と言っても、以下のようにそれぞれ得意分野は異なります。
・弁護士:相続トラブルが発生して交渉や裁判が必要な場合
・司法書士:不動産の相続登記が必要な場合
・税理士:相続税の計算や申告書の作成・提出を依頼したい場合
・行政書士:相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議書の作成など基本的な手続きを依頼したい場合
また、どの専門家であっても相続税について十分な知識と対応力がなければ、思うように相続手続きが進まないケースも珍しくありません。事前にホームページなどで、相続税に関する解決実績があるかどうかを調べたうえで依頼することをおすすめします。
相続税に関するご相談なら
今回の記事では、相続税の基礎控除や控除額の計算方法についてお伝えしました。相続を受ける際、基礎控除を利用することで相続税額を減らすことが可能です。ただし、基礎控除額は法定相続人の人数によって決まるほか、相続人の状況によっては算定の際に専門家の介入が必要となるケースも珍しくありません。
そのため、相続税の申告を自分で進めることに不安を感じている場合は、税理士に相談してみるのもひとつの手です。相続税に特化している数少ない「川口相続税サポートセンター」では、月50件以上の相続相談を受けている実績があります。
過去の事例から照らし合わせて提案ができるのが魅力です。相談は無料でできるため、もし不安な点が少しでもある場合は、この機会にぜひ一度お問い合わせください。
沖田豊明 プロフィール
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など