相続コラム

相続税の税務調査を受けやすいケース!申告漏れの場合はペナルティ?

正しく申告していたつもりでも、「税務調査が入る」と聞かされると良い気持ちはしないものです。相続税の申告は複雑なため、申告に漏れや誤りが起きやすくなります。

 

納税額が大きいため、税務調査により間違いを指摘されると、追徴課税もばかになりません。税務調査をなるべく受けないようにするための対策を考えていきましょう。

相続税の税務調査とは

相続人が提出した申告書の内容に間違いがないかを、税務署が確認し、間違いがあれば是正を促すという一連の行為を税務調査といいます。

 

相続税の税務調査には、税務署が納税者の同意を得て行う任意調査と、国税局が強制的に行う強制調査があります。

 

相続税の税務調査といえば、ほとんどが任意調査です。任意とはいっても、調査や質問に応じないと罰せられる可能性があります。

何のために税務調査が行われるのか

日本では、「申告納税方式」を採用しているため、相続税の納付が必要な方はもちろんのこと、相続税がゼロであっても「配偶者の税額軽減」「小規模宅地の特例」などを適用する方は、自ら申告を行わなければなりません。

 

しかし、その申告に漏れや誤りがある場合や、そもそも無申告である場合に、それが意図的であっても、そうでなくても、そのまま野放しでは課税の公平性が保たれなくなってしまいます。

 

これらを是正するために、税務調査は重要な役割を担っているのです。

相続税の税務調査の割合

実際、税務調査はどの程度の割合で実施されているのでしょうか。

 

国税庁の調査によると、令和元年の死亡者数の(被相続人数)のうち相続税の申告書を提出した方は、全被相続人の約8.3%でした。12人中1人程度の割合です。

 

また、相続税の申告書を提出した方のうち、税務調査(実地調査&簡易調査)が入った割合は約16.7%でした。6件中1件程度ということになります。

 

(参照:令和元年分 相続税の申告事績の概要|国税庁)

(参照:令和元事務年度における相続税の調査等の状況|国税庁)

にもとづき筆者にて算出

 

税務調査には、①実地調査、②簡易調査、③無申告事案調査と3つの種類があります。

 

調査種類別に、調査件数と違反割合、1件当たりの追徴課税を下表にまとめました。

  • 1実地調査・・・実際に納税者の自宅などに出向き行う
  • 2簡易調査・・・文書や電話などでの連絡や面接依頼などの接触
  • 3無申告事案・・・申告漏れの指摘

 

令和元事務年度(令和元年7月~令和2年6月) 相続税の調査等の状況

調査種別 調査件数(a) 申告漏れ・法律違反件数(b)

違反割合(b)/(a)

1件当たり追徴課税

①実地調査 10,635件 9,072件 85.3% 641万円
②簡易調査 8,632件 2,282件 26.4% 48万円
③無申告事案 1,077件 921件 85.5% 897万円

(参照:令和元事務年度における相続税の調査等の状況|国税庁)

にもとづき筆者にて作成

 

このことからわかることは、税務調査が入ると、高い確率で申告の間違いを指摘され、追徴課税を払っているということです。

相続税の税務調査の時期

税務調査は、税務署の事務年度が始まる7月頃から開始され、おおむね12月までに終了するというのが通常の流れとなっているようです。

 

また、相続後の税務調査の実施時期については、明確な決まりがあるわけではありません。 しかし、一般的に相続のあった翌年、翌々年までに実施されることが多いようです。

 

理由は、相続税の申告・納付期限が相続を知った日の翌日から10か月以内とされているためで、それ以後の7月~12月に調査実施となると、翌年~2年後になるわけです。

相続税の税務調査を受けやすいケース

どのような方が税務調査を受けやすいのでしょうか? 具体的にいくつかのケースで見ていきましょう。

 

  • 1申告書に不備があるケース
  • 2納税額が高い富裕層
  • 3金融資産を多く相続したケース
  • 4税理士が関与せず自分自身で相続税の申告をしたケース
  • 5相続税がかかるのに申告をしていないケース
  • 6相続財産に預貯金や現金が多いケース
  • 7海外資産が多いケース

申告書に不備があるケース

相続税を申告するときには、申告書とともに、添付しなければならない書類がいくつかあります。

 

これらに計算間違いや漏れなどの不備があると、当然、税務調査を受けることになります。

 

また、税務署が把握している被相続人の財産と、相続人が提出した申告内容に相違がある場合も調査の対象となります。

納税額が高い富裕層

相続税の税率は累進課税となっているため、遺産額が多いほど税率が高く納税額が大きくなります。

 

多くの資産を持っていた方が亡くなった場合に、申告漏れや不正があると、追加で徴収できる税額が大きなものとなるため、税務署にターゲットにされやすいという背景もあります。

 

納税額は、KSKシステム(国税総合管理システム)により一元管理されているため、税務署は納税額が高い富裕層を把握することが可能です。

金融資産を多く相続したケース

金融資産を多く持っていた方は、預貯金の他に、株や債券などで資産運用していた可能性があることや、また貸付金、売掛金、約束手形などの金融資産も含め、全てを相続人が正確に把握できているとも限りません。

 

意図的でないにせよ、相続人が資産を見落としてしまう場合もあり、税務調査の対象になりやすいようです。

税理士が関与せず自分自身で相続税の申告をしたケース

相続人の方が自分で相続税の申告書を作成し、税務署に申告を行っても問題ありません。

 

しかし、実際には、遺産総額から課税価額を計算し、土地や建物があればその評価額計算、各種特例、また税額控除など専門的な知識がないと難しいのは事実です。

 

専門家が申告した場合と、自分で申告した場合とでは、やはり後者のほうが、調査を受けやすくなるのはある意味仕方のないことかもしれません。

相続税がかかるのに申告をしていないケース

いわゆる「無申告」といわれるものです。

 

相続税を算出するときには、相続した財産から控除可能なものを差し引き、控除後の財産がプラスであると、相続税を申告しなければなりませんが、ゼロまたはマイナスであれば、相続税を申告する必要はありません。

 

課税価額を計算する上で、控除できる主なものは、相続税の基礎控除額と、生命保険金、死亡退職金の非課税額です。

 

相続税の基礎控除 : 3,000万円+600万円x法定相続人の数
生命保険金、死亡保険金の非課税控除限度額: 500万円x法定相続人の数

 

計算の結果、相続税がかからないと判断すれば、申告の必要はありません。

 

しかし、認識違いや計算間違いで相続税を正しく算出できていない場合や、相続税の納税義務があることを知っていながら意図的に申告をしない方もいるため、無申告の方にも税務調査が入る可能性はあります。

相続財産に預貯金や現金が多いケース

税務調査は、実は預貯金がメインといわれています。 相続人にとって、不動産は隠したり移したりすることができませんが、預貯金は相続税逃れのために、移す、隠すがしやすい財産といえます。

 

また、税務署にとっても、不動産よりも、預貯金や現金などの資産のほうが調査を行いやすいという背景があるようです。

海外資産が多いケース

財産が日本にないから、日本の相続税はかからないだろうと思いがちですが、相続人が無制限納税義務者である場合、相続した国内財産と国外財産の両方について、日本で相続税を払わなければなりません。

 

税務署は、共通報告基準(CRS)という仕組みにより、海外に住んでいる人の金融口座情報を自動的に取得できるため、海外居住者の資産を把握しています。

 

海外資産は、そもそも相続人が財産の存在を知らなかったり、納税義務があることを認識していなかったり等の理由で、申告から漏れてしまうケースがあるため、税務調査を受ける可能性があります。

税務調査を受けないためには

税務調査が入ると、8割の確率で申告漏れが見つかっていますので、できれば税務調査は避けたいものです。 税務調査を回避するためにできることを考えてみます。

正しく申告する

言うまでもありませんが、まずは正しく申告することが大切です。

遺産総額、課税財産、特例の適用などが適切か、計算ミスはないか何度も確認しましょう。

被相続人の財産を把握しておく

いざ相続が発生してから、被相続人の財産を洗い出すのは困難なケースもあります。 特に、預貯金以外の財産など、目に見えにくいものであれば尚更です。

 

いざというときに慌てないためにも、できれば、被相続人となる方の資産を、相続人となる方があらかじめ把握しておくことが望ましいでしょう。

 

できる範囲で準備をしておくことは、申告漏れや誤りを防ぐことにつながります。

生前贈与した場合は証拠を残しておく

多くの財産をお持ちの方は、相続税を軽減する手段として、生前贈与を利用する場合があります。

 

生前贈与でよく使われるのが暦年贈与で、これは、年間110万円までであれば贈与税が非課税となるものです。

 

注意すべきは、被相続人と相続人の間では暦年贈与のつもりであっても、証拠がないと認められないことがあります。

 

税務調査が入ったときに、暦年贈与が認められないと、相続税がかかってしまいます。 贈与を認めてもらうためには、しっかり贈与の履歴を残すことです。

 

可能であれば贈与のつど、贈与契約書を作成することが望ましいでしょう。通帳などでその記録を残しておくことも証拠になります。

相続税申告に強みをもった税理士に依頼する

ここまでお伝えしてきた通り、相続税の申告は複雑です。

 

税のプロである税理士に申告書の作成を依頼すれば、申告書に対する税務署の信用度はあがりますので、税務調査の確率は格段に低くなります。

申告漏れがあった場合のペナルティ

申告に不正がある場合や、法定納期限までに相続税を納付しない場合には、つぎのようなペナルティが課せられます。

 

延滞税

確定した税額を法定納期限までに納付しない場合に課される税で、法定納期限の翌日から発生します。

 

加算税

内容により次の3つの種類があります。

過少申告加算税・・・相続税の申告書は提出しているが、申告額が過少である場合
無申告加算税・・・申告すべき財産があるのに申告していない場合
重加算税・・・意図的な隠ぺい、脱税が認められる場合

 

刑事罰

財産隠しや偽装、脱税など特に悪質と認められると、逮捕、起訴され刑事罰を受けることがあります。

まとめ

相続税の申告は複雑で、自分で申告書を作成することもできますが、税務調査が入るリスクが高まることを考えると、専門家に依頼することも視野に入れたほうが良いかもしれません。

 

申告に間違いがあることや、無申告であることに気が付いたら、早めに修正を行いましょう。

 

修正が遅くなればなるほど、ペナルティが重くなり、追徴課税により納付すべき税が増えてしまいます。

 

税務調査を避けるためには、正しい知識で正しい申告を心がけましょう。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など