相続コラム

相続税の未分割申告とは?計算方法や注意点、デメリットを解説

DATE:2021.12.25

相続税の申告は遺産分割協議を行ってから申告することがほとんどです。

 

しかし、中には遺産分割協議がうまくいかないことがあり、調停・審判と進むことがあります。調停になった場合には非常に長い期間かかることが想定され、10ヶ月の相続税申告の期限に間に合わなくなる場合があります。

 

このような場合には、遺産分割協議しないで相続税申告を行い、この遺産分割協議をしないでする相続税申告のことを、「未分割申告」と呼んでいます。

 

このページでは、相続税の未分割申告についてお伝えします。

未分割申告とは

相続税の未分割申告とは、遺産分割をしないで仮の計算をして相続税申告をするものです。

 

相続税計算においては、各人が取得した財産の価額・相続税額の計算などにおいて、遺産分割によってどれだけの遺産を取得したかの計算が必要となります。

 

相続税の申告期限は10ヶ月なのですが、遺産分割は協議がうまくいかないと調停・審判と法的な手続きの利用が必要になり、10ヶ月以内に間に合わないことがあります。

 

このような事情があったとしても、相続税の申告期限は延長できず、申告期限を過ぎてしまうと、翌日から延滞税・無申告加算税が課されることになります。

 

このような場合に利用されるのが、相続税の未分割申告です。 遺産分割が終わったあとに、相続税を払いすぎた相続人は、更正の請求をすることで、払いすぎた部分を取り戻すことが可能です。

未分割申告の計算方法

未分割申告をする場合、法定相続分に従って計算することになります。 相続税の課税価格の計算は次のような流れで行います。

 

  • 各人が相続によって得た課税価格の計算(このときに実際に得た価格ではなく法定相続分に従って計算する)
  • 各人の課税価格を合計して課税価格の合計額を計算
  • 基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を計算
  • 法定相続分に従って取得したものとして取得金額を計算
  • 取得金額に応じて「算出税額」を計算
  • 各人の算出税額を合計して「相続税額の総額」を計算
  • 「各人ごとの相続税額」を、財産を取得した課税価格に応じて割り振って計算(このときに上述したように法定相続分に従った課税価格に応じた計算をする)
  • 「各人の納付税額」の計算

流れの中で出てきたように、課税価格の計算をするには、遺産分割が行われて取得した遺産が確定していなければ本来はできないのですが、未確定申告ではこの部分を法定相続分で計算して手続きをすすめることになります。

相続税の未分割申告する際の注意点・デメリット

相続税のみ分割申告をする際の注意点・デメリットには次のようなものがあります。

 

  • 1配偶者の税額軽減が適用できない
  • 2相続税の申告の再提出が必要
  • 3非上場株式などの納税猶予が受けられない
  • 4農地などの納税猶予が適用できない
  • 5相続した財産で物納することができない
  • 6遺産の全部を納税に充てることができない
  • 7小規模宅地等の特例で宅地の評価減ができない
  • 8特定計画山林の特例を受けることができない
  • 9特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

配偶者の税額軽減が適用できない

配偶者の税額軽減が適用できないという注意点・デメリットがあります。 配偶者の税額軽減とは、配偶者が遺産分割や遺贈によって財産を得た場合に

 

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

どちらか多い金額までは、配偶者には相続税がかからない制度をいいます。

 

つまり、この規定によって、相続税が発生する多くのケースで、配偶者は納税しなくてもよくなるといえます。

 

この制度を利用する前提として、遺産分割手続きが終わっている必要がありますので、遺産分割が終わっていない未分割申告の際には、この制度の利用ができません。

 

そのため、一旦は未分割申告をして、後の更正の請求を行って払いすぎた分を取り戻すことになります。

相続税の申告の再提出が必要

上述した配偶者の税額軽減の制度の他、小規模宅地の特例を受けたい場合で、遺産分割がうまくいかず、申告期限に間に合わない場合には、一旦未分割申告を行った上で、遺産分割が終わったあとに再度「更正の請求」という形で、事実上申告をやり直すことで、納めすぎていた税金を返してもらいます。

 

更正とはただしものに直すことをいい、仮の計算として法定相続分で計算していたものを、実際にした遺産分割の割合に直すものです。

 

この申告にも大変な手間をかけて行なうか、費用がかかっても税理士に依頼して行なうことになります。

非上場株式などの納税猶予が受けられない

証券取引所に上場していない会社の株式のことを「非上場株式」と呼びます。小さな会社のオーナーをしている場合、非上場株式を資産として持っていることになり、相続でこれが移転します。

 

小さいといっても会社の株式について、個人が相続する場合にはかなりの金額の相続になります。

 

そこで、相続税を納められなくなって、会社の運営ができなくならないように、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)で、都道府県知事の認定を受ける非上場会社の後継者である相続人又は受遺者が株式を取得する場合には、一定の要件のもとに相続税の納税が猶予されます。

 

この制度の利用についても、遺産分割が終わっていることが必要で、遺産分割が終わっていない未分割申告では、猶予は受けられません。

 

この場合には、配偶者の税額軽減のように、あとからやり直せる制度がないため、遺産分割が終わらなければ、非常に損をすることになります。

農地などの納税猶予が適用できない

未分割申告では、農地などの相続をする場合の納税猶予の特例も受けられません。相続した財産に農地がある場合で、後継者が農業を続ける場合には、農地の相続税の納税が猶予されます。

 

これは、農業を保護するための税制での優遇をするものです。農地の後継者が決まっていることが必要であるため、遺産分割協議が調わず、農地の後継者が決まらない状態である未分割申告では利用できないのです。

 

こちらも、後ほど更正の請求をするような制度がありません。

相続した財産で物納することができない

未分割申告をした場合に、相続税が支払えない場合の物納をすることができません。相続税の納付は現金で一括で行なうのが原則です。

 

しかし、現金で支払えない場合には、相続した物を納付して支払う物納という方法が認められています。物納をするための要件として、管理処分不適格財産ではないことが必要です。

 

所有権が誰のものになるか決まっていないと管理処分不適格財産として、物納できないのですが、遺産分割が終わっていないものについては、所有権の所在が誰になるかこの時点では決まっていません。

 

そのため、管理処分不適格財産として、物納ができません。

遺産の全部を納税に充てることができない

遺産を物納できないことはお伝えした通りなのですが、遺産を納税に当てられないことになります。

 

遺産については基本的には遺産分割が終わるまでは手をつけられません。自動車や貴金属・ブランド品を売却して売ったお金で納税しようと思っても、そもそも売却ができません。

 

なお、銀行預金については、仮払い制度というものがあり、相続分の1/3か150万円のどちらか低いほうが上限です。また、家庭裁判所からの仮処分を貰えれば、法定相続割合までは引き出すことが可能になります。

 

これらで足りないときには、遺産から納税費用を賄うことができないので、自分で支払う現預金を準備する必要があります。

小規模宅地等の特例で宅地の評価減ができない

相続財産に不動産がある場合に利用できる制度が小規模宅地等の特例による宅地の評価減です。

 

小規模宅地等の特例とは、同居の親族などが宅地等を承継する場合には、330㎡まで最大で80%、その不動産の評価を減額することができる制度です。

 

相続財産の価値の大部分が宅地であるような場合、この特例を利用することで、相続税がかからなくなることもあり、居住用の不動産をもっている場合には必ず使いたい特例です。

 

この特例を利用するためには、同居の親族が承継したといえることが必要ですので、当然それには遺産分割が済んでいなければなりません。

 

そのため、遺産分割が住んでいなければ、この制度を利用することができず、一度未分割申告をした上で相続税を支払って、後に更正の請求をすることになります。

特定計画山林の特例を受けることができない

遺産に山林がある場合に、その森林が特定計画森林にあたる場合には、通常の方法により算定した価格の95%の割合に評価を減じることが可能です。

 

この特例を受けるためにも、前提として遺産分割が必要です。そのため、遺産分割できていない場合にはこの特例を受けることができず、未分割申告をして、あとから更正の請求をする必要があります。

特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

特定同族会社株式等については、一定の要件のもとに、通常の評価方法で計算された課税価格から、3億を上限に10%減額することが認められています。

 

これが特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例です。この特例を認めるためにも遺産分割がされていることが必要です。

 

遺産分割できない場合には、未分割申告を行って、あとから更正の請求をする必要があります。

未分割申告は申告期限後3年以内の分割見込書を提出する

あとから更正の請求をするためには、未分割申告をする際に「申告期限後3年以内の分割見込書」というものを提出する必要があります。

 

「申告期限後3年以内の分割見込書」とは、なぜ納税時に遺産分割ができていないか、分割の見込みの詳細、遺産分割が終われば適用を受けようとする特例を説明するための書類です。

 

フォーマットは「[手続名]相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続|国税庁ホームページ (URL:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2327.html)で取得することが可能です。

 

この手続による更正の請求は遺産分割ができてから4ヶ月以内に行なう必要があります。

期限3年に間に合わない場合も申請すれば猶予がある

「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出したにもかかわらず、遺産分割調停・審判が長期化し3年以内で解決しないことも稀にあります。

 

その場合には、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、更正の請求により受けたい特例を受けることが可能となります。

 

「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」は、「[手続名]遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続|国税庁ホームページ(URL:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-01.htm)」でダウンロードすることが可能です。

まとめ

このページでは、相続税の未分割申告についてお伝えしました。

 

相続税の未分割申告をすることによって様々な特例・控除・軽減措置を受けることができないのですが、中には後に更正の請求をすることで、納めすぎた税金を取り戻すことが可能な場合があります。

 

まずは税理士に、遺産相続・相続税申告の方向性を相談してみましょう。