相続コラム
相続税の納税義務者は2種類!ケース別にみる相続税の納税義務者も解説
相続や遺贈で財産を取得したとき、どのような場合に相続税が発生するのでしょうか。
できるだけ簡単に説明していきます。
相続税の納税義務者とは
相続や遺贈(*1)、また相続時精算課税制度(*2)により財産を取得した人は、その総額が一定の基準を超えた場合に、相続税を納めなければなりません。
一定の基準とは、取得した財産の合計額から被相続人の債務などを差し引き、相続前3年以内に取得した贈与財産を加算した価額が、相続税の基礎控除額を超えている場合のことをいいます。
その超えた額に相続税がかかることになります。
(*1)遺言により特定の人に財産を譲ること
(*2)60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子や孫に対し選択できる贈与税の制度。父母や祖父母が死亡したあとに、この制度により贈与を受けた額を相続財産に含めるというもの。
無制限納税義務者
相続人が無制限納税義務者である場合、取得した被相続人の財産のうち、国内財産と、国外財産が課税の対象となります。
つまり取得した財産のすべてが課税の対象ということです。
無制限納税義務者は居住地が国内か国外かにより、さらに居住無制限納税義務者(A-1)と非居住無制限納税義務者(A-2)の2つに細分化されますが、課税される財産の範囲はどちらも同じで国内財産と国外財産の両方です。
制限納税義務者
相続人が制限納税義務者である場合、取得した被相続人の財産のうち、国内財産のみが課税の対象となります。
相続人がどちらの納税義務者に該当するかは、次のチャートにしたがって判別してください。
国内財産、国外財産の判別基準
納税義務者について詳細を解説する前に、主な財産についての、国内財産と国外財産の判別基準をまとめました。
財産の種類 | 判別基準 |
不動産 | その不動産の所在による |
銀行などの預金 | 受け入れをした営業所や事業所の所在による |
生命保険契約、損害保険契約の保険金 | 保険契約を締結した保険会社の本店の所在による |
退職金等手当金 | 退職手当金を支払った会社等の本店の所在による |
(参照:No.4138 相続人が外国に居住しているとき 1相続税の納税義務者|国税庁) に基づき筆者にて作成
国内、国外財産の判別基準は財産のある土地、契約した場所、会社の本社の所在地など、財産の種類によって基準が異なります。
制限納税義務者は相続の際、判別基準を意識する必要がでてきます。
ケース別にみる相続税の納税義務者
相続や遺贈で財産を取得した人が納税義務者となることはお伝えした通りです。
具体的にいくつかのケースでみていきます。
- 1被相続人と相続人が国外にいるケース
- 2遺贈によって財産を受け取った受遺者のケース
- 3死因贈与によって財産を受け取った受贈者のケース
- 4相続で財産を受け取った法人のケース
- 5人格のない社団が受遺者のケース
- 6納税義務者でも相続税を納めなくていいケースがある
被相続人と相続人が国外にいるケース 国外在住の被相続人が死亡したとき、相続人の居住地によっては制限納税義務者となり、課税される財産が被相続人の国内財産のみとなる可能性があることは、上記のフローチャートでわかります。
ここでは、被相続人と相続人の双方が国外に住んでいる場合に特化して課税範囲を確認しましょう。
相続人 > 被相続人 | 日本国籍あり かつ 国内に住所なし | ||
10年以内に国内に住所あり | 10年以内に国内に住所なし | ||
国内に住所なし | 10年以内に国内に住所あり |
無制限納税義務者 (国内&国外財産) |
無制限納税義務者 (国内&国外財産) |
10年以内に国内に住所なし |
無制限納税義務者 (国内&国外財産) |
制限納税義務者 (国内財産のみ) |
相続税の課税時期に、双方ともが国外在住で、かつ双方とも10年以内に日本に住んでいなければ、制限納税義務者となるため、相続人が支払うべき相続税は、被相続人の国内財産のみになります。
もし、どちらか一方または双方が10年以内に国内に住んでいた場合は、たとえ相続開始時に双方が国外在住であったとしても無制限納税義務者となり、国内、国外の財産が相続税の対象となります。
遺贈によって財産を受け取った受遺者のケース
死亡した人の財産を、遺言などによって特定の誰かに譲ることを遺贈といいます。
遺贈は一般的に「私が死んだら、〇〇さんに〇〇〇をあげます」というような被相続人の一方的なものですので、受遺者(財産をもらう人)は受け取りを拒否することも可能です。
もし財産を受け取った場合は、納税義務者は受遺者(財産をもらった人)です。
死因贈与によって財産を受け取った受贈者のケース
被相続人が死亡したことに起因して発生する贈与を死因贈与といいます。
贈与と名がついていますが、贈与税ではなく相続税の対象です。
死因贈与は、被相続人と相続人の契約で成り立つものですので、基本的に受贈者(財産の受取人)は、財産の受け取りを拒否できません。
納税義務者は、財産を受け取った人(受贈者)となります。
相続で財産を受け取った法人のケース
相続税は個人に対して課される税です。
したがって、法人が財産を遺贈などにより取得しても相続税はかかりません。
相続税はかかりませんが、会社として利益を受けたことになるため、法人税や所得税の対象となります。
人格のない社団が受遺者のケース
人格のない社団とは、管理者や代表者はいるものの法人格ではない団体のことです。
わかりやすい例でいうと、学校のPTA、町内会組合、マンションの管理組合などが人格のない社団にあたります。
人格のない社団は個人とみなされるため、財産を取得した場合には相続税がかかります。
納税義務者でも相続税を納めなくていいケースがある
相続により財産を取得した人には相続税の納税義務があるとお伝えしてきましたが、相続税がかからないケースもあります。
相続税がかからない場合でも、「申告の必要なし」のケースと、「申告の必要あり」のケースがありますので確認してください。
申告の必要なし
相続や遺贈で取得した財産には、被相続人の債務や葬式費用など控除できるものがあります。
相続財産から控除費用と基礎控除額を差し引いたあとの金額(課税価格)に相続税がかかりますが、課税価額がマイナスであれば相続税がかからないということになります。
相続税の基礎控除額は次の式で求めます。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 x 法定相続人の数
例)
・遺産総額: 5,000万円 ・法定相続人: 妻、子が2人 の計3人
・控除可能な費用: 400万円(葬儀費用 300万円 & 被相続人の債務 100万円)
・基礎控除額: 3,000万円 + 600万円 x 3人 =4,800万円
相続税の課税価額
5,000万円(遺産総額)-400万円(控除額)ー4,800万円(基礎控除額)=▲200万円
課税価額はマイナスですので、相続税はかかりません。また申告の必要もありません。
申告の必要あり
相続税にはいくつかの特例があり、特例を適用することで相続税がかからなくなる場合があります。
相続税がかからなくなる場合であっても、特例を適用する場合は、申告をする必要があります。
具体的にはつぎのような特例があります。
- 1配偶者の税額軽減
- 2小規模宅地の特例
- 3国や地方公共団体などへの寄付
配偶者の税額軽減
配偶者が相続や遺贈により財産を取得したとき、次のうちどちらか多い金額までは相続税がかからないというもの。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続相当額
小規模宅地の特例
被相続人と生計を一つにしていた被相続人の家族や親族が、被相続人が居住や事業用に使用していた宅地を相続や遺贈で取得した場合には、一定の割合で減額するというもの。
減額される率は50%~80%の範囲で、要件によって異なります。
国や地方公共団体などへの寄付
相続や遺贈により取得した財産を相続人が、国、地方公共団体、認定NPO法人などに寄付した場合は、その寄付をした財産について相続税はかからないというもの。
ただし、相続税の申告期限までの寄付に限るという期間限定ですので要注意。
まとめ
相続が発生したとき、相続税はかかるのか、誰が払うのか? など、多くの方にとって相続は一生に何度も経験することではないため、迷う場合も多いでしょう。
しかし、たとえ無自覚であったとしても、相続税の納税が必要である人が申告を怠ると、後で罰則を課されることもあります。
相続税の基礎控除額や控除できる債務があることなどを知っておくと、おおよその目安はつくのではないでしょうか。
納税が必要な場合や特例を適用する場合は正しく申告を行いましょう。
沖田豊明 プロフィール
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など