相続コラム
相続税における配偶者控除とは?利用要件・計算方法・注意点も解説
被相続人が基礎控除額を超える相続財産を遺していたときには、相続税の申告が必要となります。
相続税の申告・納税にあたって、ケースに応じて税額を軽減する制度があり、配偶者が相続をする場合には利用できるのが配偶者控除です。
このページでは、相続税における配偶者控除についてお伝えします。
配偶者控除とは
配偶者控除とは、相続税において配偶者に認められる相続税上の優遇措置をいいます。
国税庁のホームページなどに掲載される正式な名称としては、「配偶者の税額の軽減」と記載されているのですが、実務上はよく配偶者控除と呼ばれるので、このホームページでは配偶者控除と記載します。
配偶者控除が用意されている理由は、
- 年齢が近いことが多い配偶者の生活を保障すべき
- 夫婦は支え合って生活しており一方の財産には配偶者の支え合いによる貢献があると考えられる
- 被相続人と配偶者の年齢が近い場合にはその配偶者が亡くなって相続が発生するまでの期間が短いことが考えられる
といった理由によるものです。
なお、同じ相続税法に根拠がある贈与税にも配偶者控除があり、20年を超える婚姻期間がある場合に、居住用の不動産の贈与について、2,000万円までであれば贈与税がかかりません。
相続税の配偶者控除の適用要件
相続税の配偶者控除の適用要件は次のようになっています。
- 1戸籍上の配偶者であること
- 2相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
- 3相続税の申告書を税務署に提出すること
戸籍上の配偶者であること
一つ目は戸籍上の配偶者であることです。 配偶者控除は明確に法律上の配偶者と規定しています。
そのため、民法に規定されている婚姻の手続きを経て、戸籍の上でも配偶者であることが必要です。
これは、内縁の妻のように事実婚による場合には配偶者控除は適用されないことを意味します。
内縁の妻は相続人として相続をすることもありませんが、遺言で遺贈によって受遺者になることは可能です。
そのため、内縁の妻に遺産を残す手段としてよく利用されます。
相続財産が基礎控除額を超える場合には、遺贈で相続財産を受け取った人も、相続税申告をすることが必要です。
内縁の妻が受遺者になった場合でも、戸籍上の配偶者ではありませんので、配偶者控除は利用できないということになります。
相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
相続税の申告期限までに遺産分割が完了していることが必要です。 相続税の申告期限は相続開始を知った日から10ヶ月以内となっています。
この申告期限までに遺産分割を終わらせた上で相続税申告をすることが必要です。
順調に遺産分割が終わる場合には問題のない要件ですが、遺産分割で争いがおきた場合には、この要件が原因で配偶者控除を使えないことがあります。
というのも、遺産分割には、
- 当事者間の協議で行なう遺産分割協議
- 調停によって行なう遺産分割調停
- 審判によって行なう遺産分割審判
の3つがあります。
日本においては、四十九日法要が終わるまでは、急ぎのもの以外は遺産に手を付けないということが多く、遺産分割協議が始まる時点で2ヶ月が経過している、ということが珍しくありません。
そこから3ヶ月遺産分割協議を重ねても合意に至らなかったので遺産分割調停をする、となった場合、遺産分割調停の提起の時点ですでに5ヶ月を経過していることが想定されます。
遺産分割調停は、裁判所に当事者が集まって期日を決めて開かれるものです。
1回の期日が開かれるのに1ヶ月~2ヶ月くらい間隔があり、遺産分割調停には通常は3回~5回の期日が必要になるので、この時点で10ヶ月の期間制限をオーバーすることになります。
遺産分割調停が調わず、遺産分割審判になった場合には、さらに長期間遺産分割が長引くことが避けられません。
もし、10ヶ月の期間制限を超える場合でも、納税を伸ばすことはできません。
このような場合には、いったん法定相続分で配偶者控除を利用せずに申告・納税を行い、このときに申告期限後3年以内の分割見込み書を提出しておきます。
後に遺産分割が終わったあとに、相続税申告をやりなおす手続きである更生の請求をおこなって、配偶者控除を利用した相続税額との差額を取り戻します。
相続税の申告書を税務署に提出すること
相続税の申告書を税務署に提出することも要件の一つです。
後述するように、配偶者控除を適用すると、配偶者は相続税を支払う可能性はほぼありません。
だからといって申告をしなくても良いのではなく、きちんと申告を行った上で、配偶者控除を利用する必要があります。
きちんと申告書を提出しなければ、無申告ということになり、最悪のケースでは刑罰が適用されるので注意をしましょう。
相続税の配偶者控除と配偶者特別控除の違い
配偶者控除について調べていると、「配偶者特別控除」という言葉が出てきて、その意味について調べていると、何のことを言っているのかよくわからない、という声が見受けられます。
配偶者特別控除とは、配偶者に48万円を超える所得があり所得税の配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて受けることができる一定の金額の所得控除のことを指します。
つまり、配偶者特別控除の制度は所得税についての制度であって、相続税においては関係のない制度です。
相続税の配偶者控除の計算式
相続税の配偶者控除を受けると、
- 1億6,000万円までの相続
- 法定相続分の範囲内で相続
いずれか多い金額まで、相続税がかかりません。
つまり、遺産がいくらあっても法定相続分の範囲内であれば相続税はかからなくなります。
法定相続分を超える相続をする場合でも、相続する遺産の総額が1億6,000万円までであれば、同じく相続税はかかりません。
法定相続分は相続の順位によって異なるので確認しましょう。
- 第一順位:子がいる場合=配偶者の相続分は1/2
- 第二順位:親などの直系尊属が相続人になる場合=配偶者の相続分は2/3
- 第三順位:兄弟姉妹が相続人になる場合=配偶者の相続分は3/4
相続をする際に誰が相続人になるかわからない場合には、早めに専門家に相談をすることが重要です。
配偶者控除の計算は、相続税の計算の一番最後の各相続人の納付税額を計算する際に行われます。
相続税の計算は、
- 遺産総額を計算する
- 遺産の総額から基礎控除額を引き、課税遺産総額を算出する
- 相続税の総額を計算する
- 相続税の総額を実際の相続割合で分けなおす
- 各相続人の相続税納付額を計算する
以上の過程で行われ、配偶者控除は最後の各相続人の納付税額の計算をするときに、配偶者に割り振られた相続税を控除することになります。
相続税の配偶者控除を利用する場合の注意点
相続税の配偶者控除を利用すれば、配偶者の相続税負担を大幅に軽減できるので、積極的に使うべきようにも思われます。
しかし、相続税の配偶者控除は、子供が二次相続をする際の負担が高くなるなどの注意点があります。
- 1二次相続をする子供の税負担が高くなる
- 2相続争いになる可能性がある場合には遺言を遺すことを検討
二次相続をする子供の税負担が高くなる
相続税の配偶者控除を利用する場合の注意点として、二次相続をする子供の税負担が高くなる可能性があることです。
二次相続とは、被相続人の財産を相続した人が亡くなって、さらに相続が発生することをいいます。
典型的な例としては、父・母・子と家族がいる場合に、まず父が亡くなり母・子が相続し、母が亡くなり子が相続する場合です。
この場合最初の相続で母・子が相続するので、相続税の配偶者控除を使えば相続税の負担を抑えることができます。
しかし、二次相続となる母が亡くなったときの相続では配偶者控除が利用できません。
そのため、配偶者控除を使えるからといって母に相続財産を集めすぎると、二次相続のときの税負担が高くなる可能性があります。
また、二次相続のときには一時相続の時に共同相続人となっていた配偶者がいない相続になり、相続人が1人少ない状態です。
さきほど相続税の計算の過程をお伝えしましたが、相続税の計算の過程の2つ目に「遺産の総額から基礎控除額を引く」という過程があります。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円✕法定相続人の数)」で計算されるため、法定相続人が一人減る二次相続は不利です。
最後に、配偶者の財産次第では、二次相続で相続する遺産のほうが多いということもありえます。
例えば、夫の財産が1億円・妻の財産が8,000万円ある場合、一次相続で夫の遺産の半分を妻が相続し、配偶者控除を使って納税がない場合、単純計算をすると妻の財産は1億3,000万円となります。
そのまま妻が亡くなると、遺産は1億3,000万円です。
以上を総合すると、二次相続では、妻の遺産が増え・基礎控除額が減り、配偶者控除がないということになります。
これによって、一次相続で子供が相続をして相続税を支払ったほうが、二次相続まで見据えると得になるということもありえます。
二次相続が発生するような場合には、安易に配偶者控除を利用するのではなく、二次相続における相続税納付を踏まえて、トータルで考慮することが望ましいといえます。
相続争いになる可能性がある場合には遺言を遺すことを検討
配偶者控除は、遺産分割が終わっていることが要件であり、争いになって遺産分割が終わらないときには、一度法定相続分で仮の計算で相続税を申告・納税し、後に更生の請求で納めすぎた相続税の取り戻しをすることをお伝えしました。
更生の請求をすれば納めすぎた相続税の取り戻しを行なうことはできますが、当然それには手続きが必要で、複雑な手続きを自分で行なうか、税理士に報酬を払って依頼することが必要です。
そのため、できれば争わずに、一度で終わらせてしまうことが望ましいのですが、どうしても相続争いが予想される場合もあります。
今、自分の相続についての相続税負担について検討しているのであれば、争いになることが予想される場合には、遺言を作成して遺産分割をしなくても相続税申告ができるようにしておくことが望ましいでしょう。
遺言書を作成しておくことは、銀行預金を自由に使えるようになるまでの期間短縮にもなるという別のメリットもあるので、遺された配偶者の生活に負担をかけないという観点からは望ましいです。
まとめ
このページでは、相続税の配偶者控除を中心にお伝えしました。
配偶者の生活を守るための強力な控除の制度ですが、一方で二次相続を考えると慎重に利用する必要もあります。
すでに被相続人が亡くなって相続税の申告が必要な場合はもちろん、自分の相続における相続税についての戦略を考えている場合でも、まずは税理士に相談することをおすすめします。
沖田豊明 プロフィール
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など