相続コラム
相続税のかかる財産は?みなし相続財産との違いや非課税財産について
相続税の計算・試算をする場合に、まず最初に行なうのは、相続財産がいくらあるかを計算することです。
相続税においては、相続税の計算をする上で対象にならない相続財産や、相続財産ではないものの相続財産として計算するものなど、非常に複雑で難解です。
また、個別の資産をいくらと計算するのか、という問題もあります。
このページでは、相続税のかかる資産についてお伝えします。
相続税がかかる財産(課税財産)とは
相続税の基礎控除額以上の財産がある場合には、相続税が課されます。
ここにいう「財産」とは、相続税の計算において財産とされる課税財産です。
相続税における課税財産には、法律上相続財産ではなくても、課税との関係では相続財産とみなす「みなし相続財産」があります。
また、相続財産ではあっても、相続財産として計算しない非課税財産があります。
以下、個別にどのような財産が問題になるか、計算方法の該当とともに確認しましょう。
- 1土地
- 2建物
- 3事業用財産
- 4貸付金
- 5特許権
- 6上場株式・非上場株式
- 7投資信託
- 8ゴルフ会員権
- 9現金
- 10預貯金
- 11家具
- 12自動車
- 13骨董品
- 14宝石
- 15公社債
- 16海外財産
土地
土地は相続財産です。 土地の価格は、路線価が定められている地域の土地については路線価方式で、路線価が定められていない地域の土地についいては倍率方式で計算します。
なお、路線価方式で計算する場合、土地の形状によって補正をするケースがあります。
路線価図・評価倍率表は国税庁のホームページで閲覧が可能です。
不動産の共有持分を保有している場合には、以上の計算で得られた価格に持ち分割合を乗じて計算します。
持ち分割合がどれだけあるかは、不動産登記簿(不動産登記事項証明書)によって確認します。
建物
建物も相続財産です。 建物の価格の計算は単純明快で、固定資産税評価額がそのまま建物の価格となります。
事業用財産
個人事業主であった場合には、事業を営むために保有していた事業用財産も相続財産として、課税資産となります。
事業用財産には、事業を営むための機械装置や器具・車両などの一般動産と、販売目的で購入して保有している棚卸資産(一般的に在庫ともいう)があります。
一般動産については、通常の動産のように、一個・一組ごとに計算するのが原則です。
ただし、一個・一組5万円以下のものについては、一括して評価することが可能です。
原則として、中古で販売した場合の価格(売買実例価額)や鑑定をしてもらった価格(精通者意見価格)で評価をします。
棚卸資産については、種類品質がおおむね同一のものごとに評価するのが原則です。
貸付金
他人に対して金銭を貸し付けている場合の貸付金は、金銭債権として相続財産であり、相続税の対象となります。
基本的には貸し付けて返済してもらえる元金と、すでに発生している利息を合算した価格ですが、不渡りをしていたり特別清算・破産したような場合には、回収ができないので、その額は参入しないことが可能です。
特許権
いわゆる無体財産権である特許権についても相続財産となります。
特許権は、その権利に基づき将来受ける補償金の額の基準年利率による複利現価の額の合計額によって評価します。
同様に無体財産権とされる実用新案権・意匠権・商標権も特許権に準じて計算しますので注意しましょう。
上場株式・非上場株式
会社のオーナーとしての権利である株式も資産として相続の対象になります。
株式には、投資対象として証券市場で流通している上場株式と、上場しておらず流通を予定していない非上場株式の2種類が存在します。
上場株式の場合には、被相続人が亡くなった日の最終価格によるのですがその価格が
- 1課税時期の月の毎日の最終価格の平均額
- 2課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 3課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額
以上の3つの基準の中で一番低い価格を超える場合には、その最も低い価格で評価します。
非上場会社の株式については、会社の規模に応じて、純資産価額方式・類似業者比準方式・これらの併用、配当還元方式によって評価をします。
投資信託
証券会社にお金を預けて、そのお金で債券や有価証券に投資して運用しそこから得られる利益を受け取る投資信託(証券投資信託の受益証券)も、相続財産として相続税の対象になります。
証券投資信託受益証券は、課税時期において解約をした場合に証券会社から受け取ることができる金額を相続財産として評価します。
基本的には、
「1口あたりの基準価格✕口数」
に、源泉徴収される所得税の額に相当する金額・信託財産留保額および解約手数料を差し引きます。
なお、日々決算型の証券投資信託の受益証券の場合には、再投資されていない未収分配金を加算します。
ゴルフ会員権
ゴルフ会員権も財産的価値があるので相続財産となります。
ゴルフ会員権には売買ができ取引相場があるものと、流通しないので取引相場がないものがあります。
取引相場があるものについては、取引価格の70%で評価をします。
預託金がある場合には、
- 直ちに返還を受けることができる預託金等である場合には、ゴルフクラブの規約などに基づいて課税時期において返還を受けることができる金額
- 課税時期から一定の期間を経過した後に返還を受けることができる預託金等である場合には、返還を受けることができる金額の課税時期から返還を受けることができる日までの期間に応ずる基準年利率による複利現価
で評価をします。
取引相場がないものについては、
- 株主でなければゴルフクラブの会員になれないものについては株式の価額
- 預託金等を預託しなければ会員となれない場合には、取引相場のあるゴルフ会員の預託金の評価に準じて
- 株主であり預託金を預託しないと会員になれない場合には、株式の価額に上記の預託金がある場合の価額を足したもの
以上によって評価をします。
現金
現金は相続財産になりそのまま評価します。
現金が外貨の場合には、課税時期現在において取引金融機関が公表する対顧客直物電信買相場で評価します。
預貯金
預貯金は相続財産になります。
預貯金は課税時期の残高+利息ー源泉徴収されるべき所得税の金額で評価を行います。
家具
家具は相続財産となります。
相続税における評価としては事業用資産と同様に課税時期における売買実例価額・精通者意見価格等によって評価します。
自動車
自動車も相続財産となります。
自動車も家具と同様に一般動産として評価を行い、売買実例価額・精通者意見価格等によって評価します。
骨董品
骨董品も相続財産となります。
骨董品も一般動産として評価をするので、売買実例価額・精通者意見価格等によって評価をします。
宝石
宝石も相続財産となります。
宝石も一般動産として評価をするので、売買実例価額・精通者意見価格等によって評価をします。
公社債
公社債については相続財産となります。
金融商品取引所に上場されている利付公社債については、
(課税時期の最終価格+源泉所得税相当額控除後の既経過利息の額)✕券面額/100円
という計算で評価をするのが原則です。
海外財産
海外にある財産も相続財産として課税対象になります。
ただし、海外にある財産については海外で課税される可能性があり、日本の相続税を課すと二重課税になることがあります。
そのため、外国で課税された分については、相続税の外国税額控除を受けることが可能です。
みなし相続財産と呼ばれる財産もある
相続税は相続財産に対して課されるのが基本です。
そのため、相続や遺贈によって取得した資産ではないものについては、相続税の対象とならないのが基本です。
しかし、実質的にみると相続による財産移転とみなすべき場合があるものがあり、それらについては相続税法で相続財産とみなすことにしています(相続税法3条)。
最も典型的な例が、生命保険金です。 生命保険金については、保険契約に基づいて保険料の支払いを行って、受取人が保険金を受取るので、相続財産ではありません。
しかし、被相続人が保険料を支払って子が保険金を受取るのは、実質的に見れば相続と同様に考える必要があります。
そのため、みなし相続財産とされています。 同じく、被相続人の雇用契約に基づいて、遺族などに支払われる死亡退職金についても、同様にみなし相続財産とされています。
相続税がかからない財産(非課税財産)とは
相続財産になるものの中でも、非課税とされるものがあるので確認しましょう。
- 1墓地や仏壇など祭祀財産
- 2生命保険金の非課税枠
- 3死亡退職金の非課税枠
- 4国・地方公共団体・特定の公益法人への寄附
墓地や仏壇など祭祀財産
資産ではあるのですが、墓地や仏壇・位牌など、先祖を祀るための資産のことを祭祀財産と呼びます。
祭祀財産については、相続税の対象にするのが不適切であるため、非課税財産です。
なお、祭祀財産が非課税財産とされていることから、これらを亡くなる前に購入してしまうという相続税の節税テクニックがあることを知っておきましょう。
生命保険金の非課税枠
生命保険金はみなし相続財産となることをお伝えしましたが、
500万円✕法定相続人の数
は非課税とされています。
死亡退職金の非課税枠
死亡退職金もまたみなし相続財産になることをお伝えしましたが、
500万円✕法定相続人の数
は非課税とされています。
国・地方公共団体・特定の公益法人への寄附
相続した遺産を相続税申告までに国・地方公共団体・特定の公益法人に寄付した場合、寄付した財産については非課税とする特例があります。
この特例には、
- 相続・遺贈(みなし相続財産も含む)によって取得した財産であること
- 相続税の申告期限までに寄附すること
- 寄附の先が国・地方公共団体・特定の公益法人であること
という3つの要件を満たすことが必要です。
特定の公益法人とは「教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の法人」であることが必要で、どのような団体に寄附しても非課税となるわけではないことに注意しましょう。
他にも、
- 特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合
- 認定特定非営利活動法人に寄附した場合
などにも非課税となる制度があります。
どのような団体が対象になるか細かい規定があるので注意をしましょう。
まとめ
このページでは、どのような財産が相続財産となるのか、いくらと計算されるかの概要も含めてお伝えしました。
相続財産がいくらか計算するにあたっては、みなし相続財産や非課税財産などの存在にも気をつけましょう。
不明点がある場合には早めに税理士に相談することをおすすめします。
沖田豊明 プロフィール
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など