相続コラム

生命保険金(死亡保険金)の相続税はいくら?相続対策に有効な理由

DATE:2021.12.22

亡くなった人の遺産を相続したとき、その相続した金額が相続税の基礎控除額を超えると相続税がかかります。


相続税を軽減するための方法のひとつに生命保険の活用があります。

わかりやすく説明していきます。

相続税における生命保険の取り扱い

生命保険金には非課税限度額の設定があり、受け取った保険金が非課税枠を超えると税金がかかります。

生命保険金は相続税の課税対象となる

死亡したときに遺族などが受け取る生命保険金(死亡保険金)は、保険契約者、被保険者、保険金受取人がそれぞれ誰であるかにより、相続税、贈与税、所得税のいずれかの税金がかかります。

 

生命保険金が非課税限度額を超えている場合は、保険金受取人は税金を支払わなければなりません。

生命保険金はみなし相続財産となる

亡くなった人から直接相続する本来の相続財産に対し、亡くなったことに起因して生命保険会社から支払われる生命保険金(死亡保険金)のことを「みなし相続財産」といいます。

 

生命保険金のほかにも、遺族が亡くなった人の会社から受け取る死亡退職金も「みなし相続財産」となります。

生命保険金は受取人の固有の財産となる

たとえ遺言書があったとしても法定相続人が複数いる場合、遺留分などの問題で遺産分割がスムーズに進まないことがあります。

 

しかし、生命保険金(死亡保険金)は、保険金受取人の固有の財産とされるため、遺産分割の対象外となります。

 

たとえば、生命保険金の受取人に法定相続人以外の人が指定されていたとしても、生命保険金が法定相続人に侵害されることはありません。

生命保険契約の死亡保険金について

生命保険は契約者と保険金受取人の相関関係で受取人に課される税の種類が異なります。

契約者が被保険者だと相続税に該当

(契約者=被保険者)

保険料を負担している人(契約者)と保険をかけられている人(被保険者)が同一である場合、被保険者が亡くなると、死亡保険金の受取人に相続税がかかります。

契約者が受取人だと所得税に該当

(契約者=保険金受取人)

保険料を負担している人(契約者)と保険金受取人が同一である場合、被保険者が亡くなると、契約者(=受取人)の一時所得となり所得税がかかります。

契約者・被保険者・受取人が全て異なると贈与税に該当

(契約者≠被保険者≠保険金受取人)

保険料を負担している人(契約者)、保険をかけられてる人(被保険者)、保険金受取人がすべて違う人である場合、保険金受取人に贈与税がかかります。

 

契約者が支払った保険料で、保険金受取人が利益を得ることになるので、受取人は契約者から財産の贈与を受けたとみなされるためです。

 

少し複雑ですが、これら3つの課税関係を夫、妻、子の3人家族に当てはめ、夫が死亡したと仮定した場合、課税関係は下表のようになります。

 

契約者(保険料負担)

被保険者

保険金受取人

課税関係

相続税

所得税

贈与税

 

参照)国税庁 保険と税 保険金を受け取ったときの税金 生命保険

生命保険が相続対策に有効な理由

生命保険の活用が相続対策になる理由はいくつかあります。

 

  • 1生命保険には非課税枠がある
  • 2納税資金を準備できる
  • 3生前贈与に利用できる
  • 4代償分割に利用できる
  • 5受取人がすぐに活用できる
  • 6財産を遺したい人に取得させることができる

生命保険には非課税枠がある

契約者=被保険者である場合、保険金受取人には相続税がかかることをお伝えしました。

 

しかし、相続税は受け取った保険金全額にかかるわけではなく、生命保険金の非課税枠をオーバーした金額にかかります。

 

生命保険金の非課税限度額は次の式で算出します。

  • 非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

 

たとえば、法定相続人が、妻と子の2人であった場合、

500万円x2人=1,000万円

が非課税限度額となります。

 

仮に、死亡保険金が1,500万円であったなら、

1,500万円(保険金)ー1,000(非課税枠)= 500万円

に相続税がかかることになります。

 

なお、保険金受取人が複数いる場合は、非課税限度額をそれぞれの受取金額により按分して、個々の課税金額を計算します。

 

出典)国税庁 2.各人に係る課税金額
No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁 (nta.go.jp)

納税資金を準備できる

生命保険は相続税の納税資金の準備として活用できます。

 

相続税には基礎控除額があります。相続財産が基礎控除額以下であれば納税の必要はありませんが、相続財産が基礎控除額を超える場合には、相続税の支払い義務が生じます。

 

  • 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 x 法定相続人の数

 

たとえば、法定相続人が2人なら、基礎控除額は4,200万円(3,000+600x2)です。

 

仮に、相続財産が自宅のみで、その相続税評価額が5,000万円だとすると、5,000万円から基礎控除額の4,200万円を差し引いた残りの800万円に対し相続税がかかります。

 

相続税の納付は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に現金での支払いが基本です。
(現金での納付が困難であると認められた場合、延納、物納も可)

 

しかし、相続財産が土地や建物など不動産のみであった場合に、相続税の支払いに必要な現金が不足してしまうことが懸念されます。

 

このような心配を回避するために、被相続人が被保険者となり生命保険に加入することで、亡くなった後に相続人に現金を遺し、相続税の支払いに充てることができます。

生前贈与に利用できる

贈与税には暦年課税という仕組みがあり、1人あたり年間110万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。

 

この仕組みを活用して生前贈与を行い、贈与された資金で生命保険に加入することで相続対策ができます。

 

ただし、この方法は保険契約者を受贈者(贈与を受ける人)とすることがポイントです。

 

たとえば、贈与者が父で、贈与を受ける人が子だとすると、次のような契約になります。

 

  • 契約者=子
  • 被保険者=父
  • 保険金受取人=子

子を契約者とすることで、子が受け取る生命保険金は一時所得となり所得税の対象となりますが、課税される金額は受け取った生命保険金から支払った保険料を差し引いて、さらに50万円控除した金額の半分となるため、課税される金額は軽くなります。

 

一時所得の課税所得 ={(受け取った保険金 ー 支払った保険料)-50万円}× 1/2

 

たとえば、毎年100万円を10年間、父から子へ生前贈与を行うと相続財産を1,000万円減らすことができ、かつ贈与税もかかりません。

 

ただし、生前贈与を成立させるためには、書面での証拠が必要となりますので、

  • 贈与の度に贈与契約書を作成する
  • 通帳等で金銭の流れを記録しておく

などの対策が必要です。

代償分割に利用できる

相続財産が自宅のみで、法定相続人が複数いる場合に、相続人の1人が自宅を相続すると、ほかの相続人は遺産を相続できず不公平となります。

 

そこで、自宅を相続した人は、ほかの相続人に対し、自分の金銭で、本来ほかの相続人がもらえるはずであった相続分を払います。

 

これを代わりに償うという意味で代償分割といいます。

 

代償する資金を用意する手段として、生命保険が活用されます。

 

生命保険金を代償分割の資金源とする場合、次のような契約形態で行います。

(設定)
被相続人  : 父
法定相続人 : 長女、長男 の2人
相続財産  : 自宅(土地、建物)のみ 

本来、長女と長男は財産を1/2ずつ相続する権利があるが、長女が自宅を相続して居住することになるため、保険金を活用して長女から長男へ代償分割を行うというもの。

 

 

保険契約者

被保険者

保険金受取人

父 (被相続人) 父 (被相続人) 長女 (相続人)
長女 (相続人)

父 (被相続人)

長女 (相続人)

 

被相続人(父)の存命中に、長女を受取人とする①または②の生命保険契約を結びます。

被相続人(父)が亡くなった後長女は保険金を受け取り、保険金で長男への代償分割をします。

尚、代償分割の成立には、遺産分割協議書にそのことを明記しておく必要があります。

受取人がすぐに活用できる

生命保険金(死亡保険金)は受取人の固有の財産ですので、遺産分割協議に含まれないことは前述したとおりです。

 

用途は自由ですので、これまで説明したように、納税資金に充てることもできますし、代償分割資金としても活用できます。

財産を遺したい人に取得させることができる

現金でお金を遺すと、被相続人が特定の人に財産を多く遺したいと思っていても、遺留分の請求などで、故人の遺志通りにならない場合があります。

 

しかし、生命保険金(死亡保険金)は受取人の固有の財産ですので、相続させたい人を受取人に指定することで、被相続人の遺志を尊重できます。

相続を放棄すると

相続を放棄した場合に、死亡保険金の扱いはどのようになるのでしょうか。

相続を放棄しても死亡保険金は受け取れる

相続は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金)も受け継ぐということです。

 

プラスの財産よりマイナスの財産のほうが大きい場合には相続放棄を選択するケースもあるでしょう。

 

死亡保険金はみなし相続財産ですが、法律上の相続財産ではないため、たとえ相続を放棄しても、生命保険金を受け取ることができます。

受け取れる保険金、受け取れない保険金

相続を放棄している人であっても、生命保険金の受取人に指定されていれば、生命保険金は受け取れます。

しかし、生命保険金の受取人が被相続人(亡くなった人)になっている場合、相続を放棄している人は、生命保険金は受け取れません。

 

なぜなら受取人が被相続人(亡くなった人)であると、保険金は相続対象となるため、相続放棄をしている人は受け取る権利がないからです。

 

相続を放棄している人が、受け取れる保険金と受け取れない保険金のパターン

被保険者

受取人

生命保険金

被相続人

被相続人

受け取れない

被相続人

相続放棄している人

受け取れる

非課税枠が適用されなくなる点は注意が必要

相続放棄をした人も、生命保険金の非課税限度額(500万円x法定相続人)を計算する上では人数に含めて良いことになっています。

 

ただし、相続放棄をした人が受け取った生命保険金に対しては、非課税枠が使えません。

受け取った生命保険金全額に相続税がかかってしまいますので注意が必要です。

まとめ

相続税対策に生命保険を活用するには、契約者や受取人の設定が多少複雑です。

 

しかし、相続税の基礎控除額や、生命保険の非課税限度額、生命保険の課税関係を理解した上で生命保険活用をすれば、確実に節税対策につながるでしょう。