相続コラム

貸家建付地(賃貸建物の敷地)の相続税評価の計算方法を簡単に解説

DATE:2022.01.14

不動産を多数所有している方の中には、建物を自分の名義で建築し、賃貸物件として利用していることがあります。


このような賃貸物件のための土地のことを相続税法との関係では「貸家建付地」といい、相続税申告の際にその土地をどのように評価するか、どのように評価するかを知った上でどう相続税対策に活かすか、ということが問題になります。


このページでは、「貸家建付地」についてお伝えします。

貸家建付地とは

貸家建付地とは、相続税における相続財産の価格の決定に関する財産評価基本通達において、「貸家(借家権の目的となっている家屋)の敷地の用に供されている宅地」とされているものを言います。


典型的な例は、土地所有者が共同住宅を建築して賃貸を行なっている時の土地がこれにあたります。


形式的には土地として所有しているものであるのですが、他人が建物に居住し利用しているため、自分が使えないということもあり、土地の価格としては低く評価することができます。


そのため、財産評価基本通達26において「貸家建付地」というカテゴリーで計算方法を明確に示しています。

なお、他人が使用する権利がない土地のことを「自用地」と呼びますのであわせて確認しておいてください。

貸家建付地の要件

では、貸家建付地とするための要件を確認しましょう。


貸家建付地といえるためには、

  • 土地の上に土地所有者名義の建物があること
  • 建物が賃貸されており、賃料が世間相場並みであること

の2つの要件を満たす必要があります。

土地の上に土地所有者名義の建物があること

第三者に建物を建築させる目的で「土地」を賃貸する「貸宅地」とは異なり、貸家建付地は、土地所有者が自ら建物を建築し、賃貸することが条件です。

建物に第三者が居住したりするので、自由に土地を動かせなくなることを考慮した減価なのです。

賃料が世間相場並みであること

貸家建付地として認められるための2つめの要件は、賃料が世間相場並みであることです。


くり返しますが、貸家建付地として自用地よりも評価を下げる理由は、賃貸に出していて他人に使用をさせているからです。


とすると、賃料が極めて低いような場合には、実質的には賃貸ではなく使用貸借といえます。


使用貸借の場合には、すぐに契約を解除して建物を撤去してもらうことが法律上は可能なので、使用が制限されているとはいえません。


そのため、賃料が極めて低いような場合で、使用貸借と評価できるような場合には、貸家建付地とは認める必要がありません。


貸家建付地としての評価減を認めるためには、世間相場並みの賃料を受け取って賃貸借であると評価できる必要があります。

貸家建付地の相続税評価

では所有している土地が貸家建付地である場合、相続税の申告にあたっていくらと評価されるのかを確認しましょう。


貸家建付地の価額は 「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」という計算式で求められます。


ここでいう「自用地」とは第三者の権利が付されていない土地(=更地)のことを指します。


それぞれの計算の仕方は次の通りです。

  • 1自用地評価額
  • 2借地権割合
  • 3借家権割合
  • 4賃貸割合

自用地評価額

自用地の評価額は、その土地が存在する場所によって路線価方式と倍率方式のいずれかによって計算します。


路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことをいい、国税庁のホームページで確認をすることができます。


主に都市部の不動産を評価する際に用いられます。


基本的には「路線価×土地」の面積で計算するのですが、その土地がどのような形状をしているかによって、価格を補正することがあります。


倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地の評価に用いられます。


計算方法は、「評価倍率×固定資産税評価額」で計算します。


路線価・評価倍率は、国税庁ホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(URL:https://rosenka.nta.go.jp)で確認することが可能です。

借地権割合

借地権割合とは、賃貸借によって土地を借りて建物を保有している場合の、借地権の評価をするための割合です。


借地権割合は、土地によって30%~90%の間で定められています。


借地権割合は上述の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に記載があります。


路線価地域の場合には路線価とともにアルファベットが書かれており、アルファベットに応じて

A=90%
B=80%
C=70%
D=60%
E=50%
F=40%
G=30%

となっています。


たとえば、「100B」と記載されている場合には、路線価は1平方メートルあたり10万円(100千円)で、借地権割合は80%となります。


アルファベットがない地域は20%となります。


倍率方式については評価倍率の表に記載がありますので、それに従います。 「−」となっているものについては20%で計算します。


この割合は、人通りが多く商業的な利用価値が高い都会のほうが高い傾向にあります。

借家権割合

借家権割合とは、建物を賃貸しているときに、相続税の計算をするために用いられる割合のことをいいます。


借家権割合は、土地と異なり一律30%とされています。

賃貸割合

賃貸割合は、実際に賃貸されている部分を計算するための割合です。


この賃貸割合は、賃貸されている部屋の戸数で考えるのではなく、賃貸されている床面積によって考えます。


そのため、5室あるうち4室が賃貸されている場合でも、4/5と計算されるわけではなく、4室の床面積/5室の床面積で計算します。

貸家建付地を検討する場合に押さえるポイント

相続税対策などの観点から、土地がある場合に貸し付けを行い、借家建付地とする場合に抑えておくべきポイントを確認しましょう。


  • 1自用地として持っているよりも貸家建付地の方が評価額は下がる
  • 2賃貸併用住宅を建てた場合
  • 3貸し駐車場と貸家建付地の関係性
  • 4空室の判断について
  • 5数棟の貸家がある場合の評価方法

自用地として持っているよりも貸家建付地の方が評価額は下がる

具体的な例をあげると


  • 自用地評価額5,000万円
  • 借地権60%
  • 建物の賃貸状況は100㎡中100㎡は貸し付けられている(=満室)

の土地を貸家建付地評価する場合、以下の通りとなります。


5,000万円 ー(5,000万円 × 60% × 30% × 100㎡/100㎡)=4,100万円


上記の通り、借地権割合が60%の地域で賃貸割合が100%であれば18%の減価が可能となります。そのため、自用地として持ち続けているよりも相続税を下げることが可能です。


また、賃貸をするわけですから、賃料として現預金を取得します。


現預金はそのまま生活費として使うことが可能ですし、また生前贈与をする・そのお金で生命保険を申込むなど、他の相続税対策に利用することが可能となります。


貸家建付地の利用は直接的にも間接的にも相続税対策に利用可能です。

賃貸併用住宅を建てた場合

例えばアパート・マンションを建てる際に、最上階のみを自分たちで使用して、あとの部分について賃貸にするように、賃貸併用の住宅を建てることがあります。


この場合、賃貸されている部分に関してのみ、相続税評価額を減額することができます。


自宅として利用しているだけの場合には、全てが自用地として計算されますが、賃貸併用住宅とすることで、評価を下げることが可能となります。

貸し駐車場と貸家建付地の関係性

遊休不動産の活用方法として昨今利用されることが多いのが、貸し駐車場としての利用です。


貸し駐車場にしている場合には工作物を設置しますが、建物をたてるわけではないので、貸家建付地の要件を満たしません。


そのため、貸し駐車場としても、その土地は貸家建付地とはなりません。


ただし、アパートやマンションと地続きの土地をその建物の入居者専用の駐車場として利用している場合は、この駐車場にも貸家建付地の減価を適用することが可能です。


しかし、1台でも建物の入居者以外の人に賃貸している場合は貸家建付地の減価は適用できません。また、いくら専用駐車場だとしても、建物と駐車場との間に道路があり、物理的に分断されているような駐車場も貸家建付地の減価は適用できません。


あくまで建物と一体利用されていて切り離せないものだという事実が必要ということです。

空室の判断について

賃貸割合の計算にあたっては実際に賃貸している床面積の合計で計算します。


つまり、空室が少ない方が賃貸割合が上がるので、土地の評価額を下げる効果が高いです。


空室かどうかは相続発生時点で判断するので、そのときに空室になっているときには、空室分は賃貸割合に含めないのが原則です。


しかし、例えば学生が入居するのに便利なアパートを所有しているとして、3月に入居している人の多くが退去するものの、4月にはまた新たな学生が入居するということがあります。


そこで、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる各独立部分がある場合」、賃貸割合として計算してかまわないことになっています。


  • 空室となっている部分が継続的に賃貸されているか
  • 前の賃貸人が退去した後にすみやかに募集をかけているか
  • 空室となっている間にほかの利用方法がされていないか
  • 空室期間が1ヶ月ほどの限られた期間であること
  • 課税時期後の賃貸が一時的なものではないか

以上のような事情を総合考慮して決定します。

数棟の貸家がある場合の評価方法

一つの土地に貸家が数棟ある場合があります。


宅地の評価は1地番毎に評価するのではなく、1筆の土地に貸家が複数ある場合には、貸家の数分だけ画地を分けて個別に評価するのが原則です。


アパートが2棟ある場合には2画地として計算します。


貸家建付地として、敷地を区分する必要がありケースによっては測量をしてもらう必要もあります。


評価単位を分けるのは難しい判断をすることが多く、複雑な計算も必要としますので、早めに税理士に相談するようにしてください。

まとめ

このページでは、貸家建付地についてお伝えしました。


土地がある場合の評価の方法として複雑な計算を要求されるものですが、うまく利用すれば相続税の評価額を下げる効果があります。


税理士に相談して、うまく相続税対策に利用することをおすすめします。