相続コラム

相続税に時効はある?除斥期間や発覚した場合のペナルティについて

相続税に時効はある?除斥期間や発覚した場合のペナルティについて

相続税は、被相続人の財産を相続した人に課される税金です。申告期限を過ぎると、ペナルティが科されるなど、適切に対応しないと大きな損失を被る恐れがあります。

 

本記事では、相続税の時効や期限後申告、支払いが困難な場合の対処法などについて詳しく解説します。

 

相続税に時効はある?

相続税には時効(除斥期間)が定められており、時効が成立した場合は税務署が税金を課す権利を失い、相続税を納付する義務がなくなります。そもそも相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告し納付しなくてはなりません。

 

とはいえ、相続税に関する手続きは多岐にわたるほか、それぞれに期限が設けられているため、自分ですべてを把握・管理するのは困難といえます。たとえ悪意がなかった場合でも、申請期限を過ぎてしまうと、控除や軽減の制度が受けられなくなるほか、ペナルティが科される恐れがあるため注意が必要です。

 

もし相続税に関して不安がある場合は、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

 

相続税の時効の詳細

相続税の時効の詳細

ここでは、相続税の時効の期間などの詳細について解説します。

 

除斥期間は原則5年

相続税の時効(除斥期間)は、法定申告期限である死亡日の10ヶ月後から原則5年と定められています。なお、ここでいう5年という時効の期間が有効となるのは、以下のようなケースです。

 

・申告が必要となる財産を把握していなかった

・長年被相続人と交流がなかった

 

悪意がある場合には7年

相続税の時効は原則5年ですが、悪意があると認められた場合には7年に延長されます。7年の時効となるのは、以下のようなケースです。

 

・申告が必要となる財産を知っていながら申告をしなかった

・財産を隠した

・財産に関わる書類を改ざん・偽装をした

 

起算日はいつ?

相続税の時効の起算日は、相続税の法定申告期限の日です。法定申告期限とは、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月後の日を指します。よって、被相続人が亡くなった日から数える場合、相続税の時効は「5年10ヶ月後」あるいは「7年10ヶ月後」となります。

 

時効の中断はない

民法では「一般債権の時効」には更新(中断)という概念がある一方で、相続税の時効には中断という概念がありません。そのため、時効の途中で期間が延びることはなく、最初の法定申告期限から一定期間を経過すると納税の義務がなくなります。

 

相続税の時効が成立しづらい理由

相続税の時効が成立しづらい理由

先にもお伝えしたように、相続税の時効は5年または7年です。この期間を過ぎれば相続税の申告義務がなくなると考える人もいるでしょう。

 

しかし、相続税の時効が成立するのは非常に難しく、実際に時効が成立したケースはほとんど見受けられません。相続税の時効が成立しづらい理由として、以下の3つが挙げられます。

 

税務署は税務調査を行っているため

税務署は、相続税が生じることが予想される人に対してあらかじめ税務調査を行っており、相続税が生じたタイミングで申告案内を送付します。そのため、この時点で「相続税を納める義務を知らなかった」という事態に陥ることは基本的にあり得ません。

 

また、税務署はさまざまな情報を保有しているほか、過去10年以上の履歴をさかのぼって調査を行います。被相続人や相続人の口座を確認するのはもちろんのこと、必要があれば入出金の流れや不動産登記の内容も把握できるため、相続税の申告を逃れる確率は限りなく低いといえるでしょう。

 

名義預金だけでなくタンス預金まで調べられるため

税務署が調査する際、名義預金だけでなく誰が管理を行っていたかまで確認されます。そのため、名義が別の口座にお金を移していたとしても、容易に見つかってしまうでしょう。また、税務調査の対象から逃れるために、タンス預金をしている人も多い傾向にあります。

 

しかし、税務署は被相続人の財産の総額を予想することができ、総額と預金が一致しない場合、税務調査が入り徹底的に調べられてしまうでしょう。タンス預金がばれてしまうと、本来の相続税に加えてペナルティが課されることになります。

 

場合によって反面調査が行われるため

税務署は、被相続人の財産調査を相続人に対して依頼することがあり、依頼を拒否した場合に納税者以外への聞き取りがされる反面調査が行われることになります。

 

ここでいう納税者以外への聞き取りの対象となるのは、会社や銀行です。相続人が黙秘した場合でも、反面調査によって財産が明らかになってしまうでしょう。

 

税務調査の対象になりやすいケースとは

税務調査の対象になりやすいケースとは

相続税の税務調査に該当しやすいケースをいくつか紹介します。

 

申告内容に不備がある

自分で相続税申告をし、その内容に不備がある場合、税務調査の対象になりやすいといわれています。相続税申告書の第1表には税理士の署名押印欄があるため、仮に自分で作成した場合にはすぐに税務署に気づかれてしまいます。不備や添付書類不足があり、なおかつ納税者が自ら作成した書類となれば、必然的に税務調査の対象になる可能性が高まるといえるでしょう。

 

多額の金融資産を相続した

多額の金融資産を相続した場合、ミスや見逃しの可能性が高まることから税務調査の対象となる恐れがあります。また、相続財産の課税価格が高ければ高いほど、税務調査が行われるリスクも増えるでしょう。

 

事業を営んでいた場合

事業を営んでいた被相続人の場合、事業用資産の評価が複雑になるため、税務調査の対象になりがちです。事業用資産には有形無形の資産が多数あり、評価が難しいことが調査対象となる大きな理由だといえます。

 

相続税の時効前に発覚した場合のペナルティ

相続税の時効前に発覚した場合のペナルティ

相続税の時効前に無申告が発覚した場合、本来納めるはずの相続税に加えて以下のペナルティが生じる恐れがあります。ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

 

無申告加算税

無申告加算税とは、正当な理由がなく申告期限内に申告をしなかった場合に課されるペナルティです。無申告加算税の税率は以下のように定められています。

 

 

納付税額が50万以下

納付税が50万円を超える部分

相続税額が300万円を超える部分

実地調査の事前通知から実地調査までに申告した場合

10%

15%

25%

実地調査後に申告した場合

15%

20%

30%

 

なお、期限が過ぎたあとに自主的に申告する場合でも、追加納付した税額の5%を無申告加算税として支払わなくてはなりません。

 

過少申告加算税

過少申告加算税とは、申告期限までに申告はしたものの、後に申告漏れをしていた財産が発覚した場合に課されるペナルティです。過少申告加算税の税率は、修正申告した時期と納付額に応じて以下のように定められています。

 

 

納付額との差が50万円以下

納付額との差が50万円超え

実地調査の事前通知から実地調査までに修正申告した場合

5%

10%

実地調査後に修正申告した場合

10%

15%

 

無申告加算税と異なり、税務調査で指摘される前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税が課されることはありません。

 

重加算税

重加算税とは、仮装・隠蔽が合った場合に無申告加算税と過少申告加算税の代わりに課されるペナルティです。納付額を下げるように申告内容を偽装したケースや、故意に申告をしなかったケースが対象となります。

 

申告期限までに申告した場合:35%

申告期限までに申告していない場合:40%

 

重加算税は無申告加算税と過少申告加算税と比べると、より高い税率が課されます。

 

延滞税

延滞税とは、申告期限を過ぎてから税金を納めた際に課されるペナルティです。納付が遅れたことによる利息のようなものと考えるとよいでしょう。

 

納期限の翌日から2か月を経過する日まで:原則年7.3%

納期限の翌日から2か月を経過した日以後:原則年14.6%

 

遅延税は年率であり、申告期限の翌日から相続税を納付した日までの日数で日割り計算されます。

 

相続税の期限後申告について

原則として、相続税の申告は相続が発生した日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。しかし、遺産分割協議が思うように進まない、小規模宅地等の特例を適用することで税額がゼロになり申告が不要だと考えていたなどの理由で、申告期限を過ぎてしまうこともあるでしょう。

 

申告期限が過ぎてから相続税の申告を行うことを「期限後申告」といい、無申告加算税と延滞税などのペナルティが課されます。このペナルティは申告が遅れれば遅れるほど大きくなります。万が一、遺産分割協議がまとまらずに申告期限に間に合いそうにない場合、いったん未分割の状態で申告納税を済ませ、遺産分割協議が終わり次第、修正申告を行うことでペナルティを回避できます。

 

相続税が払えない場合の対処法

相続税が払えない場合の対処法

相続税額に対して資金の準備が不十分である場合、「相続税が払えない」という事態に陥るケースも少なくありません。ここでは、相続税が払えない場合の対処法について、主に5つ紹介します。なお、どの対処法においてもメリットとデメリットがあるため、しっかりと特徴を理解したうえで自分に合ったものを選ぶようにしましょう。

 

分割して払う

相続税は基本的に一括払いが原則ではありますが、以下の要件を満たせば延納が認められ、分割して支払うことが可能です。

 

・相続税額が10万円以上であること

・一括納付が困難であること

・申告期限までに延納申告書などを提出すること

・担保財産を提供すること

 

このように一括で払えない場合に延納を利用することで、納税負担を軽くできるのが大きなメリットです。しかし、延納期間中は利子税が発生するため、本来の納付額よりも多くなってしまうのがデメリットとなります。

 

土地などの現物で払う

現金の代わりに不動産や有価証券などの現物で相続税を払う方法もあります。基本的に延納が困難な場合の対処法のひとつです。相続した財産だけがの物納の対象となり、以下のように優先順位が決められています。

 

第1順位:不動産、有価証券など

第2順位:非上場株式など

第3順位:貴金属など

 

上位にあたる土地などの財産を相続している場合、下位にあたる貴金属などの財産は物納の対象とはなりません。また、相続時の時価よりも低く評価されやすいのがデメリットです。

 

土地などを売却して払う

売却できる土地があれば、売却代金から相続税を払う方法があります。相続税より売却代金が多ければ、納税後も手元に資金が残るのが利点です。ただし、希望価格で売れるか、相続税の申告期限までに売れるかなどの確約がなく、場合によっては譲渡所得税など想定外の出費が発生する恐れがあります。

 

金融機関からローンを組んで払う

相続税の納税資金を金融機関から融資を受ける方法もあります。金融機関によっては、延納よりも利子税が低いこともあるため、お得に借入れが可能です。しかし、相続税を払うためだけにローンを組むとなると、担保や保証人が必要となるケースもあり、住宅ローンなどのような一般的な融資より審査が長引く恐れがあります。

 

遺産相続を放棄する

最終手段として、遺産相続を放棄する方法があります。遺産相続を放棄すると、相続税の納税義務がなくなることに加えて、相続に関する一切の権利を手放さなくてはなりません。よって、現金や預貯金などの財産も受け取れなくなります。なお、相続開始から3ヶ月と短い期間内に家庭裁判所へ申し立てなくてはならない点に注意が必要です。

 

相続税に関するご相談は税理士へ

相続税に関するご相談は税理士へ

今回の記事では、相続税の時効に関する概要をはじめ、ペナルティや相続税が払えない場合の対処法などについてお伝えしました。基本的に相続税の時効を迎えることは非常に困難であり、後に税務署による調査で相続が発覚すればペナルティが生じます。そうなると、本来の相続税額よりも多くの税金を支払わなくてはならないため、かえって損失を被ることになるでしょう。

 

このような事態に陥らないためにも、相続に関する情報は正確に把握し、申告期限内に納付することが大切です。ただし、相続税に関する手続きは煩雑であり、思うように手続きをすすめられないケースも少なくありません。

 

もし相続税の申告を自分で進めることに不安を感じている場合は、税理士に相談してみることをおすすめします。

川口相続税サポートセンター」は、数少ない相続税に特化している税理士事務所になります。月50件以上の相続相談を受けている実績があり、過去の事例から照らし合わせて提案ができるのが魅力です。相談は無料でできるため、不安な点が少しでもある場合は、この機会にぜひ一度お問い合わせください。

 

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など