相続コラム

相次相続控除の要件は?6つの注意点と計算例も分かりやすく解説

相次相続控除の要件と注意点を解説します。相次相続控除は見逃しがちですが、要件を満たすと確実に節税につながります。


短期間のうちに相続が連続した!相続税の支払いがきつい!という方には注目の制度です。


計算方法と計算例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

相次相続控除とは

相次(そうじ)相続控除は短期間のうちに相続が連続した場合に適用される控除です。相い次いで発生した相続に適用される控除だから相次相続控除と呼ばれます。


短期間で相続が発生すると相続税の支払いも連続する結果になりますが、ほかの税金とくらべて相続税は高額になりがちです。


相続税の支払いが相次ぐと大変ですよね。やや極端な例ですが、祖父の相続にかかる相続税を支払った翌日に今度は父が亡くなりましたという場面を想像してみてください。前回はおじい様の相続税をお支払いいただきましたので、今度はお父様の相続にかかる相続税をお支払いくださいと税務署から言われたら、ちょっと待ってください、そんな短期間でお金の準備できないですよ!と言いたくなります。


この気持ちに応えてくれたのが相次相続控除です。10年以内に相続が連続する場合、1回目の相続(一次相続といいます)からの経過年数に応じて2回目の相続税が軽減されます。


一次相続から2回目の相続(二次相続)までの間が1年なら、一時相続の時に被相続人が収めた相続税の90%に当たる金額が今回の相続税から控除されます。2年なら80%、5年なら50%、7年なら30%、9年なら10%と、1年ごとに控除される度合いが減っていく仕組みです。


先ほどの、祖父が亡くなって1年も経たないうちに今度は父が亡くなりましたという場合には、父の死亡にかかる相次相続控除の計算割合は100%になります。


相次相続控除の背景には納税者のふところ事情もありますが、二重課税防止の理念も影響しています。同一財産に対して短期間で連続して課税するのは二重課税をしているのに等しいという考えです。


相続税の世界には相次相続控除のほかにも二重課税を禁止するために用意された控除(贈与税額控除や外国税額控除など)が複数あります。


使える控除があっても申請しない限り控除の恩恵にあずかれません。意外ですが控除のなかには税理士でも見落としてしまう類があります。相次相続控除はその最たる例です。

相次相続控除の要件

10年間のうちに相続が連続した場合、相次相続控除を主張して減税できる可能性があります。


「可能性があります」と記述したのは、相次相続控除の行使には10年の期間制限以外にも、いくつかの要件を満たす必要があるからです。


要件を一つずつ確認していきましょう。

  • 1一次相続から10年以内に二次相続が発生
  • 2二次相続の相続人であること
  • 3一次相続で相続税を納税している

一次相続から10年以内に二次相続が発生

前提となる要件です。二次相続は一次相続から10年以内のものに限られます。一次相続から10年経過していると対象外だということです。


先の例でいうと祖父の死亡と父の死亡の間に10年を超える空白があると相次相続控除の対象から外れます。

二次相続の相続人であること

相次相続控除を主張できるのは相続人に限られます。相次相続控除における「相続人」の解釈は限定的なのが特徴です。


ここでいう「相続人」には相続人以外で遺贈を受けた者は省かれます。また相続放棄をした相続人も相次相続控除における「相続人」から外れます。


相続放棄をした相続人は放棄をした時点で最初から相続人でなかった者、つまり他人同然として扱われるからです。

一次相続で相続税を納税している

一次相続の段階、つまり祖父が死亡したときに父が相続税を納税している必要があります。


基礎控除や特例により父が納める相続税がゼロだった場合、相次相続控除は使えません。


父が死亡(一次相続)して直後に母が死亡した(二次相続)ケースでも理論上は相次相続控除の対象になります。


しかし配偶者である母は一次相続の時点で配偶者軽減の特例により納税を免れている可能性が高く、それゆえ現実には父・母死亡のケースで相次相続控除が適用されるケースは少ないのです。

相次相続控除の注意点

相次相続控除を使う際の6つの注意点を紹介します。重複する内容もありますがぜひ参考にしてみてください。


特に相続税の申告後でも間にあう点は注目です。相次相続控除を忘れしまっていても適用の余地はまだ残されています。


  • 1相続税の申告後でも適用できる
  • 2兄弟間の相続でも適用できる
  • 3相続人でない場合には適用できない
  • 4前回の相続で相続税が課税されていない場合は適用できない
  • 5未分割でも適用できる
  • 6遺産を売却する場合は申告する

相続税の申告後でも適用できる

相次相続控除はある種マイナーな控除です。ときには税理士でさえも申告を失念します。相次相続控除の存在を後で気づくこともあるでしょう。


このあたりは税務署も寛容で、相続税の申告期限から5年以内なら更生の請求をして相次相続控除を申請できます。


相続税申告の法定期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。


仮に失念したとしても死亡から5年と10か月を経過するまでは相次相続控除を申請できるわけです。

兄弟間の相続でも適用できる

相次相続控除を主張するには相続人である必要があります。兄弟も相続人同士の関係にありますので問題なく相次相続控除を申請できます。


兄の妻が死亡して(一次相続)、その後に兄が死亡し弟が兄の財産を相続(二次相続)するなどの事例で考えられます。


ただし兄弟間の相続自体、兄弟に子供も親もいないことが条件になってきます。実際には兄弟間で相次相続控除が適用されるはケースはそう多くないでしょう。

相続人でない場合には適用できない

先ほども触れましたが相次相続控除の主体は相続人です。


相続人以外で遺贈を受けた者や相続放棄者は主体要件から外れます。

前回の相続で相続税が課税されていない場合は適用できない

繰り返しになりますが、一次相続の時点で相続税を支払った事実が必要です。


控除や特例により納税の必要がなかった場合も適用対象外です。納税なくして相次相続控除なしです。

未分割でも適用できる

遺産分割未了の状態でも相次相続控除を申告して相続税の減税処置を受けられます。


ときどき遺産分割がまとまらないあいだに相続税の申告期限を迎えてしまうことがあります。主に協議が揉めた場合です。


協議がまとまらない場合、ひとまず法定相続分で申告した体(てい)にして相続税を仮り納付するのですが、この仮り納付をする際にも相次相続控除は申告できます。


覚えておくと仮り納付時の負担を減らせますね。

遺産を売却する場合は申告する

基礎控除と同じく相次相続控除を適用した結果、相続税がゼロになるのなら相続税の申告はしないで済ますこともできます。


ただし相続した財産のなかに不動産が含まれていた場合で、なおかつ相続開始から3年10か月以内に相続対象となった不動産を売却する予定があるのなら、納める相続税がゼロでもあえて申告しておくことをおすすめします。


取得費加算の特例を受けるにあたり、相続税の申告がされていないと特例を認めてもらえないからです。

相次相続控除の計算式と計算例

相次相続控除の計算式と計算例を紹介します。

やや複雑ですが、一つずつステップを踏んでみていきましょう。

相次相続控除の計算式

相次相続控除の計算式は次のとおりです。


A × C /(B-A)× D/C ×(10-E)/ 10

注)C /(B-A)の値が100を超えるときは100/100とする


A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額並びに延滞税、利子税及び加算税の額は含まれません。
B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務及び葬式費用の金額)
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます)

相次相続控除の計算例

次の事例をもとに計算してみましょう。


1週間前に父が死亡。5年6か月前にも祖父が死亡しており、父は1,000万円の相続税を納めています。父の息子Aが納めるべき相続税額(900万円)から控除できる相次相続控除はいくらでしょうか?


父が祖父から相続した純資産価額は1億6,000万円で、今回父から相続する全体の純資産価額は2億円。そのうちAが相続する純資産価額は9,000万円(相続税額は900万円)です。


A〜Eに該当する数字を割りだしていきます。

A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額 1,000万円

B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額 1億6,000万円

C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額 2億円

D:今回のその相続人の純資産価額 9,000万円

E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます)5年


上記の事実を計算式に当てはめていきます。


A × C /(B-A)× D/C ×(10-E)/ 10

注)C /(B-A)の値が100を超えるときは100/100とする


計算の結果、

1,000万円×2億円 /(1億6,000万円 - 1,000万円)× 9,000万円 / 2億円 ×(10-5)/ 10 = 225万円(相次相続控除額)

Aさんは225万円の相次相続控除の適用を受けられることがわかりました。


注意書きにあるように、2億円 /(1億6,000万円 - 1,000万円)の計算が100/100で処理される点を見落とさないようにしましょう。

まとめ

今一度、相次相続控除の要点をまとめておきます。

  • 一次相続から10年以内の相続が対象
  • 一次相続の段階で相続税の課税がされたこと
  • 申告者が相続人であること

以上の基本的な要件を押さえたうえで、

  • 相続税の申告期限後でもまだ間にあう
  • 遺産分割未了段階でも適用される

といったことも知っておくといざというとき助けになります。


相次相続控除は見逃しがちですが、一次相続からの経過年数によってはかなりの節税になりうる控除です。


漏らさずに使いたい控除のひとつといえるでしょう。計算がやや複雑なので申告書作成の詳細は税理士に任せることをおすすめします。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など