相続コラム

遺産相続の割合について徹底解説!パターン別の計算方法や注意点など

相続をする際に、被相続人(亡くなった人)の財産を誰がどれくらいの割合で相続するかを決める必要があります。相続に関するルールは民法上で定められており、それに従って取り決めを行うのが一般的です。

 

とはいえ、遺産相続の割合は遺言書の有無などによって大きく左右されます。そのため、納得がいかない相続人によってトラブルに発展するケースも少なくありません。

 

そこで、今回の記事では法定相続割合に関する知識をはじめ、計算方法や注意点について紹介します。

 

相続とは

相続とは、被相続人が所有していた財産上の権利や義務を受け継ぐことです。亡くなった日が相続開始日と民法で定められていますが、行方不明であれば「失踪宣告」、事故や災害で亡くなった場合は「認定死亡」により相続がスタートするケースもあることを覚えておきましょう。

 

相続によって財産上の権利や義務を受け継げるのは、配偶者や子供、一定の身分関係にある人に限られます。受け継ぐ対象となるものを「相続財産」と呼び、不動産や現金、自動車などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれる点に注意しなくてはなりません。

 

また、相続財産の対象とならないものとして、生命保険や死亡退職金が挙げられます。たとえば被相続人が受取人を配偶者に指定していた場合、保険金はすべて配偶者に支払われます。これは保険金の目的が、被相続人の財産ではなく生活を共にする配偶者や子供の生活を支えるためのものであるからです。

 

相続における選択肢は3つある

法定相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢から、相続の方法を選ぶことができます。ここでは、それぞれの方法について説明します。

 

単純承認

単純承認とは、相続人が被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も、すべての権利義務を相続する方法のことです。

 

仮に故人の財産が1,000万円で借金が3,000万円あった場合、単純承認を選ぶと1,000万円の財産を受け取れる一方で、3,000万円の借金を故人に代わって弁済することになります。

 

単純承認を選ぶ際に特別な手続きは不要であるほか、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内(※)に限定承認や相続放棄の意思を示さない場合にも、自動的に単純承認をしたものとみなされます。なお、限定承認や相続放棄をする前後に相続財産の全部、または一部を処分あるいは隠した場合も単純承認として扱われるので注意が必要です。

 

(※)3ヶ月という熟慮期間は家庭裁判所に対して、3ヶ月に申請をすることにより、延長可能です。

 

限定承認

限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぎ、相続する方法のことです。

 

先ほどの例をもとに解説すると、故人の財産が1,000万円で借金が3,000万円である場合に限定承認を選ぶと、弁済しなければいけない借金は2,000万円となります。残りの借金2,000万円について債権者は弁済を求めることができず、相続した財産以上に負債を引き継がずに済む点がメリットといえるでしょう。

 

限定承認を選ぶ場合は相続の発生から3カ月以内に相続人全員で家庭裁判所に対し、「限定承認申述書」と「財産目録」を提出する必要があります。

 

相続放棄

相続放棄とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことを指します。

 

マイナスの財産が多く引き継ぎたくないといった場合、相続放棄をすることで相続人が債務を引き継ぐことはありません。

 

相続による損失を回避するために相続放棄が選択されるケースが多いほか、相続問題に巻き込まれたくない、被相続人の財産を特定の相続人にすべて承継させたいといった場合(事業承継など)にも行われることがあります。

 

相続放棄を選択した場合、その相続人は相続開始当初から法定相続人ではなかったことになります。そのため、相続放棄をした人に子がいる場合には、当該子が被相続人の財産を代襲相続することもなくなる点に注意しましょう。

 

相続放棄の手続きは単独で行えるものの、限定承認と同様に相続が始まったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所での手続きが必要となります。

 

相続人に該当する人とは

ここでは、相続人に該当する人について解説します。

法定相続人

法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続できる人のことです。法定相続人になる人は被相続人の配偶者と被相続人の血族であり、血族相続人には相続順位が定められています。先順位に該当する人が1人でもいる場合、後順位の人は相続人とはなれません。

 

【法定相続人の順位について】

必ず相続人となる:被相続人の配偶者(妻や夫)

第一順位:被相続人の子(すでに亡くなっている場合は孫)

第二順位:被相続人の父母(すでに亡くなっている場合は祖父母)

第三順位:被相続人の兄弟姉妹(すでに亡くなっている場合は甥姪)

 

法定相続人を決める場合、戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)を取り寄せる必要があります。戸籍謄本は本籍地のある市区町村役場で取得できるため、余裕をもって取得手続きを済ませておくとよいでしょう。

 

参考文献:相続人の範囲と法定相続分

 

遺言によって受遺者になった人

受遺者とは、遺言によって財産を無償で取得する人のことを指し、法定相続人とは以下のような違いがあります。

 

  • 1受遺者には代襲相続が生じない(受遺者の権利義務は一代で終わる)
  • 2他の相続人が相続放棄をしても受遺者の受遺分が増えることはない
  • 3団体でも受遺者となれる

 

遺産相続が生じた場合、原則として法定相続人が法定相続分の遺産を取得しますが、遺言がある場合には遺言書が優先される点に注意しましょう。

 

【ケース別】遺産相続の割合・計算方法

原則として、遺言書の割合に従って遺産相続は行われますが、中には遺言書が見当たらないケースも多いでしょう。そうした場合において「法定相続分」と呼ばれる法定相続人の相続割合に従って遺産を分けることができます。法定相続分は相続順位ごとに異なるため、ここではケース別に遺産相続の割合・計算方法について見ていきましょう。

配偶者と子供が相続人である場合

配偶者と子供が相続人である場合、法定相続割合はそれぞれ1/2ずつとなります。また、子どもが複数いる場合には、その人数での按分となります。

例)相続人が配偶者と子3人である場合

配偶者:1/2、子どもがそれぞれ1/6ずつ

配偶者と父母が相続人である場合

相続人が配偶者と父母の場合、配偶者2/3、父母が1/3の割合で遺産を相続します。

例①)父も母も健在の場合

配偶者:1/3、父と母がそれぞれ1/6ずつ

例②)父母ともに亡くなっていて、祖父が健在の場合(※祖父が法定相続人となる)

配偶者:2/3、祖父:⅓

配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合

相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。また、兄姉が複数いる場合にはその人数で按分となる点に注意しましょう。

例)配偶者と兄、弟が相続人の場合

配偶者:3/4、兄と弟がそれぞれ1/8(1/4÷2人)

法定相続分ではなく異なる分割割合でわけてもよい

遺産相続が生じた際、必ずしも遺言書があるとは限りません。遺言書がない場合、必ずしも法定相続分に従って遺産を分ける必要はなく、遺産分割協議で相続人の遺産をどのように分割するかをどうするかについて話し合うことができます

 

遺産分割協議には全ての相続人が参加するほか、合意に至った内容を「遺産分割協議書」として書面にまとめる必要があります。また、遺産分割協議で一度合意した場合、全員の合意なくその内容を変更することはできません。そのため、あとから「やっぱりこの分配方法では納得がいかない」といった蒸し返しトラブルの抑制にも繋がるでしょう。

 

配偶者がいない場合

配偶者がおらず、相続人が子どもだけの場合には子どもの人数で按分となります。また、父母だけであれば父母が1/2ずつ、兄弟姉妹だけであればその人数で按分することになるので覚えておきましょう。

 

遺産相続の割合に関する注意点

ここでは、遺産相続の割合を決める際に注意すべきポイントを3つ紹介します。

 

遺言書の有無を確認する

 

遺言書がある場合、遺言の内容に基づいて遺産相続の割合が決まります。定められている法定相続分に従う必要がないため、自由に割合が決められるのがメリットです。

 

あらかじめ遺産相続の割合が決められていることから、相続人同士のトラブル防止にも役立ちます。ただし、遺言書があったとしても相続人同士で割合が決められるケースや、遺言の内容に不公平が生じた場合に「遺留分」が発生することもあります。遺留分とは、法律上取得できることが保証されている相続財産のことです。

 

このように遺言書があるかどうかによって、遺産相続の割合は大きく左右されます。遺産相続の割合を計算する際には、必ず遺言書の有無を確認しておくようにしましょう。

 

遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議の内容に法定相続人全員が同意した場合、必ず遺産分割協議書の作成をしておくことが大切です。その理由として、協議後のトラブルを防ぐほか、相続の手続きの際に必要となることが挙げられます。

 

なお、遺産分割協議書の内容は、行方不明の相続人を除外して話し合いを進めたり、隠し子などの存在を知らないまま話合いを進めたりした場合には認められません。また、遺産分割協議によっても分割方法がまとまらない場合、家庭裁判所による調停・審判の手続きがなされることも見受けられます。

 

相続放棄が認められないケースがある

相続放棄をするためには、相続の開始を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなくてはなりません。しかし、これらの手続きをする前に相続財産を処分してしまうと、相続放棄ができなくなるため注意が必要です。

また、遺産分割協議の中で相続放棄の意思表示をし、法定相続人全員の合意を得ただけでは相続放棄をしたことにはなりません。相続放棄をしたはずが、後から借金などのマイナスの財産を相続していたといったケースも見受けられます。このような事態に陥らないためにも、期限内に家庭裁判所へ相続放棄の申し立てを行うことを忘れないようにしましょう。

遺産相続の割合に関するトラブル例

ここでは、遺産相続の割合に関するよくあるトラブルを3つ取り上げてみました。

 

不動産に関するトラブル

土地をはじめとした、分割することが難しい財産に付随するトラブルは少なくありません。評価額をいくらにするかといった話し合いがまとまらないほか、そのまま住み続けたい人と売却して現金に換えたい人との間で言い合いになってしまうこともあるでしょう。

 

土地を分割する方法として、「代償分割」や「換価分割」といった方法が挙げられます。

 

代償分割は、誰か一人が不動産をそのまま相続し、他の相続人に対して現金を支払う方法です。

 

たとえば4,000万円の土地に対して相続人のAとBがいる場合、Aが4,000万円の土地を相続し、Bに対して1,000万円程度の現金を支払うといった形になるでしょう。

 

一方で、換価分割は相続した不動産を売却し、その売却代金を複数の相続人で分ける方法です。現金にすることで分割がしやすくなり、土地がらみの相続トラブルが生じるのを防げます。

 

ただし、不動産を売却して利益が生じた場合、譲渡所得に該当することから相続人全員に譲渡所得税が課税される点に注意しましょう。

 

いずれの分割方法においても、法務や税務の知識が必要となることに加え、トラブルに結びつきやすいことから基本的には専門家へ相談することをおすすめします。

 

相続人の一人が遺産を独占してしまった

相続トラブルの中には「私が長女(長男)だから」といった理由で被相続人の遺産を独り占めしているケースも見受けられます。

 

かつては「家督相続」といって、被相続人が亡くなった際に長男がひとりですべての遺産を継承することが多く見受けられました。しかし、昨今ではそういったケースがあった場合において、他の相続人が「遺留分」の存在を主張し「遺留分減殺請求」を行うことが可能です。

 

遺留分とは、一定の条件を満たした相続人に対して最低限の遺産相続分を保証する相続割合のことで、遺言書の内容に関わらず保障されています。また、遺留分の割合は以下のとおりです。

 

【遺留分の割合】

 

遺留分

法定相続分

各人の遺留分

配偶者と子
(または孫)

1/2

配偶者:1/2
子:1/2

配偶者:1/4
子:1/4

配偶者と父母
(または祖父母)

1/2

配偶者:2/3
父母:1/3

配偶者:2/3
父母:1/6

配偶者と兄弟姉妹
(または甥・姪)

1/2

配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4

配偶者:1/2
兄弟姉妹:なし

配偶者のみ

1/2

全部

1/2

(または孫のみ)

1/2

全部

1/2

父母

(または祖父母のみ)

1/3

全部

1/3

兄弟姉妹

(または甥・姪のみ)

なし

全部

なし

 

遺言書の内容によるトラブル

遺産相続における「遺言書」は非常に重要な役目を果たす一方、ときには特定の相続人に優遇する記載がある(あるいは特定の人を排除する)遺言書が発見されるケースも少なくありません。また、遺言書の形式が無効であるほか、遺留分を無視した内容となっているときもトラブルに発展しやすいといえます。

 

遺言書について不安がある場合、弁護士をはじめとする専門家に相談することで、そうしたトラブルを未然に防ぐことが可能です。また、相続発生後の遺言書の確認作業もあわせて依頼しておくと安心でしょう。

 

遺産相続に関するご相談なら

このページでは法定相続割合に関する知識をはじめ、計算方法や注意点についてお伝えしました。相続に関するルールは民法で定められており、それらに従って手続きをすることになります。とはいえ、人それぞれ状況が異なることから、手続きが複雑化するケースも少なくありません。また、相続はお金が絡むことからトラブルが起きやすく、あらかじめ基礎知識を身に着けておくほか、プロに相談するのもひとつの手です。


相続税の申告を自分で進めることに不安を感じている場合は、税理士に相談してみるのもひとつの手です。相続税に特化している数少ない「川口相続税サポートセンター」では、月50件以上の相続相談を受けている実績があります。過去の事例から照らし合わせて提案ができるのが魅力です。相談は無料でできるため、もし不安な点が少しでもある場合は、この機会にぜひ一度お問い合わせください。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など