相続コラム

相続税における障害者控除とは?利用要件・計算方法・注意点も解説

相続が発生して相続税の基礎控除額を超える遺産がある場合には、相続税の申告・納税が必要となります。

 

相続人の中に障害者がいる場合には、相続税の上で優遇される「障害者控除」という制度があります。

 

このページでは、障害者控除についてお伝えします。

障害者控除とは

障害者控除とは、相続税の申告において、相続人が障害者であるときに、相続税の計算で受けられる控除のことを言います。

 

障害者である場合には、就労が難しい・生活の維持のために通常よりも費用がかかる、ということが考えられます。

 

そのため、富の再分配を目的とする相続税の計算においても優遇すべきという考え方から、このような制度が設けられています。

相続税の障害者控除を受けられる要件

では、相続税の障害者控除を受けるためにはどのような要件が必要でしょうか。

 

  • 1日本国内に住所があること
  • 2障害者であること
  • 3法定相続人であること
  • 4障害者である相続人が相続財産を取得すること

日本国内に住所があること

相続税の障害者控除を受けるためには、基本的には日本国内に住所があることが必要です。

 

ただし、

  • 日本国籍である
  • 被相続人もしくは相続人が、相続開始前5年以内に日本国内に住所を有していた

以上にあてはまる場合には、障害者控除の対象になることがあります。

障害者であること

相続税の障害者控除をうけるためには、当然ですが障害者であることが必要です。

障害者の種類には、障害の程度が軽い一般障害者と、障害の程度が重い特別障害者があります。

 

一般障害者には、

  • 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた人
  • 精神障害者保健福祉手帳を交付を受けており障害等級が2級・3級の人
  • 身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されており障害の程度が3級~6級と記載されている人
  • 戦傷病者手帳の交付を受けていて障害の程度が第4項症~第6項症までの人
  • いつも就床していて複雑な介護を受けなければならない人で知的障害者・身体障害者3級~6級と同等であると市区町村の長からの認定をうけた人
  • 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の人で市区町村の長からの認定をうけている人

 

特別障害者には、

  • 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人
  • 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定によって重度の知的障害者と判断された人
  • 精神障害者保険福祉手帳の交付を受けており障害等級が1級の人
  • 身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されており障害の程度が1級又は2級と記載されている人
  • 戦傷病者手帳の交付を受けていて障害の程度が特別項症から第3項症までの人
  • 原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている人
  • いつも就床していて複雑な介護を受けなければならない人で重度の知的障害者・身体障害者1級2級と同等であると市区町村長の認定をうけた人
  • 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の人で、年齢65歳以上の人で市区町村の長からの認定をうけている人

がこれにあたります。

法定相続人であること

相続税の障害者控除を受けるためには法定相続人であることが必要です。

 

これは、相続税の申告・納税の義務は、法定相続人だけではなく受遺者にも課せられるのですが、遺贈で財産をもらう受遺者の立場になったときまで、障害者の生活を守るための控除は認めなくても良い、というのが理由です。

障害者である相続人が相続財産を取得すること

障害者である相続人が相続財産を取得することが必要です。

 

相続税は相続財産を手にする相続人に課せられるので、遺産分割で障害者である相続人に相続分を0とするような場合には、障害者控除を利用することはできません。

 

障害者控除は、障害者本人の相続税を控除することはもちろん、扶養義務者の相続税を控除する効果もあります。

 

例えば、親が亡くなって子3人で相続をする場合で、末っ子が障害者であるときに、長男が扶養義務者として末っ子の面倒を見ていることがあります。

 

この場合に、長男が末っ子の面倒をみるかわりに、末っ子分の相続分を長男が相続することにして、末っ子の相続分を0としてしまうと、障害者控除が使えなくなります。

 

ほんの一部でも遺産を相続できれば障害者控除を受けることは可能なので、障害者控除を利用したい場合には、一部でも財産を取得できるようにするなど、遺産分割の上で注意をしましょう。

障害者控除の計算方法

障害者控除の計算方法を確認しましょう。

障害者控除は、障害者が一般障害者に該当するのか、特別障害者に該当するかによって計算式が異なります。

一般障害者の場合

一般障害者の場合には、

  • (85歳ー相続開始年齢)✕ 10万円

が控除されます。

 

相続開始(=被相続人が亡くなった日)のときに30歳だった場合には、 (85-30=55)✕10万円=550万円が控除されます。

 

なお、障害者控除を受けるのが2度目以降の場合には、

  • (85歳ー最初の相続開始のときの年齢)✕ 10万円-控除の合計

この計算式で求められる金額を同時に計算し、 いずれか少ない方の金額が控除額となります。

 

子が障害者である場合、両親である父・母が亡くなることを考えると、複数回相続が発生することは考えられるので注意しましょう。

特別障害者の場合

特別障害者の場合には、

  • (85歳ー相続開始年齢)✕ 20万円

が控除されます。

 

相続開始(=被相続人が亡くなった日)のときに30歳だった場合には、 (85-30=55)✕20万円=1,100万円が控除されます。

 

なお、障害者控除を受けるのが2度目以降の場合には、

  • (85歳ー最初の相続開始のときの年齢)✕ 20万円 ー 控除の合計

この計算式で求められる金額を同時に計算し、 いずれか少ない方の金額が控除額となることは、一般障害者の場合と同様なので注意しましょう。

障害者控除は各人の相続税の納付額を計算する際に使用する

この金額は、相続税の計算過程において、最後の過程である各人の相続税の納付額の計算において行われます。

相続税の計算は、

 

  • 1遺産総額を計算する
  • 2遺産の総額から基礎控除額を引く
  • 3課税遺産総額の計算をする
  • 4相続税の総額を計算する
  • 5相続税の総額を実際の相続割合で分けなおす
  • 6各相続人の相続税納付額を計算する

という順番で行いますが、障害者控除は最後の計算で行なうことになります。

控除枠があまる場合には扶養義務者の相続税を控除することもできる

障害者控除の金額は非常に大きく、障害書控除の額を全額使えないことがあります。

 

例えば、上記の相続税の総額を実際の相続割合で分け直した結果、300万円という計算になった場合で、障害者控除の金額が400万円だったとしましょう。

 

この場合、障害者本人は相続税の納税額が0円となり、100万円の控除分が余ることになります。

 

この場合、100万円は扶養義務者の相続税を控除するのに使うことが可能です。

 

たとえば、兄弟2人で相続した場合に、弟が障害者である場合、扶養義務者である兄は弟が引ききれなかった障害者控除を受けることができます。

相続税の障害者控除における注意点

相続税の障害者控除を利用する場合の注意点として、次のような事項を確認しておきましょう。

障害者に該当するかどうかの判定時期

障害者控除を受けるためには、障害者である必要があるのですが、いつ障害者であることが必要なのか、その判定時期が問題なることがあります。

 

例えば、

  • すでに病気や怪我で障害の認定を受ける状態にあったものの、手続きに時間がかかっているうちに相続が発生した
  • 相続が発生して相続税申告をするまでの間に交通事故にあい障害者となった

などのパターンが考えられます。

 

基本的には相続開始時に障害者である必要があり、相続開始時は被相続人が亡くなったときなので、被相続人が亡くなったときに障害者であるかどうかが問題となります。

 

しかし、障害の状態があっても手続きがされていない状態であった場合、相続開始のときには実質上障害者であったといえます。

 

そのため、申請中であるような場合や、医師の診断書が相続開始前に作成されているような場合は、障害者控除を受けることができます。

 

一方、被相続人が亡くなって相続開始した後に交通事故や病気で障害者となった場合には、障害者控除は利用できません。

要介護認定を受けていたら障害者控除を適用できるのか

本人が高齢で認知症などを患っている場合に、要介護認定を受けていることがあります。

 

この場合には、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」にある場合として、障害者控除を受けることができる可能性があります。

 

要介護認定を受けているような場合には障害者控除を利用できるだろうと思っても、障害者として認定されるために要介護認定は一切関係がなく、そのままでは障害者控除が受けられない可能性があります。

 

この場合には、障害者控除対象者認定書を取得することで、障害者控除を受けられることができます。

療育手帳を交付されていたら障害者控除を適用できるのか

相続人が知的障害者である場合には、療育手帳を取得していることがあります。 療育手帳は、上記の障害者の要件に直接あてはまるものではありません。

 

しかし、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた人は障害者控除を受けることができるとされています。

 

そして療育手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所の判定結果に基づいて都道府県知事が交付するもので、障害者控除が認められています。

 

また障害の程度によって、特別障害者・一般障害者それぞれに該当するものとされます。

 

療育手帳については、地域によって運用が異なるので、どの認定がされていると、特別障害者なのか一般障害者なのかはケースによって考えます。

障害者控除を適用して遺産総額が基礎控除以下になる場合、相続税申告は必要なのか

修正申告、期限後申告、更正の請求でも障害者控除を適用はできるのか

申告内容に誤りがあり修正申告する場合や、10ヶ月の期間制限に間に合わずあとから申告する場合、一度法定相続分で申告をして遺産分割が終わり次第更生の請求をする、といったことがあります。

 

障害者控除については、最初の期限内の申告のみで使えるという要件はありませんので、修正申告・期限後申告・更生の請求をする場合いずれでも適用可能です。

財産が未分割の場合でも、障害者控除の適用できるのか

配偶者の税額軽減のように、遺産分割がきちんと終わっていない未分割の場合にしか適用できないものがあります。

 

障害者控除は、遺産分割が終わっていなくても利用可能となっています。

まとめ

このページでは、相続税の障害者控除についてお伝えしました。

 

障害者が相続をする場合の非常に大きな控除の制度であり、場合によっては扶養義務者の相続税も差し引けるものです。

 

申告にあたって不明な点がある場合には、ぜひ税理士に相談してみましょう。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など