相続コラム

孫に遺産相続させる方法!相続以外でも孫に財産を残す方法を紹介

親苦子楽孫乞食(親が苦労して手に入れた財産を、その子供が無駄に使ってしまい、孫には財産が渡らず乞食になってしまうという意味)という言葉が昔からある通り、せっかく残した相続財産を使い切ってしまう子もなかにはいらっしゃいます。

 

そのようなことから、近年では「自分の息子や娘より孫の方に遺産を渡したい」とご相談にいらっしゃる方も相続件数の増加に比例して増えているのが現状です。

 

そこで今回は、孫に相続させる方法からその注意点まで多岐にわたってご紹介いたします。

孫に遺産相続させる方法

そもそもですが、孫に遺産相続させることは可能なのでしょうか? 結論から申しますと可能です。

もっとも直接遺産を渡すには原則以下の5つの方法でしなければなりません。詳しくご紹介いたします。

 

  • 1遺言書を作成して相続する
  • 2養子縁組する
  • 3代襲相続で相続する
  • 4遺産分割協議の中で主張してもらう
  • 5生前贈与で先に財産を渡しておく

遺言書を作成して相続する

本来なら亡くなった方の財産は、その子供である息子や娘に渡ることは民法887条の「被相続人の子は、相続人となる」という条文によって法律上規定されています。

(ちなみに被相続人とは、相続財産を持って亡くなられた方のことを指します。)

 

しかしこのままでは、孫の方に遺産が渡ることはありません。 そこで重要になってくるのが、遺言書の作成です。

 

遺言書に、「孫にこの遺産の全てを贈与する」と記載することで、遺産は本来遺産を受け取るはずであった法定相続人の許可なく孫に渡ることになります。

 

被相続人は法律の範囲内であれば、被相続人の相続財産の一部のみを遺贈できたり、また不動産であっても特定の財産を指定し贈与するなど自由に決定することができます。

 

このように遺言によって法律よりも被相続人の意思が尊重されるのです。

 

しかし被相続人の子も遺留分を請求する権利がありますので、遺言に記載したからといって財産の全てが孫に渡る保証はありませんのでご注意ください。

 

また遺言書を書き誤ってしまうと無効になりますので、記載内容に不備がないかを慎重に確認しておきましょう。

養子縁組する

続いては、孫を養子にして事実上の自分の子供にする方法です。

 

「孫を養子にできるのか?」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、法律上何も問題なく行うことができます。

 

また相続税の負担が減るメリットがありますが、デメリットもありますので孫を養子にする場合は、専門の方に相談することをおすすめします。

※詳しくは「孫に遺産相続するメリット」でご紹介いたします。

代襲相続で相続する

孫の父であり被相続人の子供が既に亡くなっている場合は、孫が自分の父に代わって遺産を相続することができます。これを代襲相続と言います。

 

代襲相続人となることができる範囲は、被相続人の直系卑属(子や孫)や被相続人の兄弟姉妹の子(甥や姪)ですので孫も例外なく代襲相続をすることができます。

 

代襲相続をすることによって孫の父の相続割合をそのまま引き継ぐので一親等の血族の扱いになり後ほど紹介する2割加算が適用されないというメリットもありますが、遺産相続について身内で争わなければならない可能性があるというデメリットもありますので、代襲相続を行う場合はそれぞれを把握した上で行う必要があります。

遺産分割協議の中で主張してもらう

孫に遺産を渡したい場合は、被相続人の生前の意思で遺産分割協議の中で主張してもらう方法でも行うことができます。

 

この場合、遺産分割協議の中で他の相続人全員が孫の遺産相続に関して同意をした場合、孫は遺産を相続することができます。

 

もっとも法定相続人が多い場合は、全員の同意を得ることが難しいことが多いので、おすすめできません。

 

そのため遺産分割協議において被相続人の生前の意思のみでは、そこまで効力を有しないため、生前のうちに他の相続人に了解を得たり、遺言を作成するなどをして孫に相続できる可能性を高めておく必要があります。

生前贈与で先に財産を渡しておく

その名の通り、生きている間に孫に財産を直接贈与するという意味です。 自分の渡したい人に直接財産を渡すことができるのでとても良い方法と言えますが、注意すべきなのがやはり贈与税です。

 

<一般贈与財産用>(一般税率)

基礎控除後の課税価格 200万円以下 300万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
3,000万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 - 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円

 

<特例贈与財産用>(特例税率)

基礎控除後の課税価格 200万円以下 300万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
3,000万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 - 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円 640万円

 

この贈与税が相続税よりも高くなる可能性も大いにありますので、孫に相続を考えている方は、暦年贈与(贈与を受けた人の1月1日~12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合、110万円を超えた分に対して贈与税が課税される制度)などの税金が極力かからない方法を税理士や弁護士の方と相談の上、生前贈与をすることをお勧めします。

孫が相続できる遺産の割合は分配方法によって変わる?

下記の3つのパターンがあります。

 

  • 1遺言書で相続した時の孫の相続分
  • 2養子縁組で相続した時の孫の相続分
  • 3代襲相続で相続した時の孫の相続分

遺言書で相続した時の孫の相続分

遺言書での孫の相続分は、基本的に自由です。すなわち孫も貰う相続分が法律で定められているわけではありませんので、遺言書に記載された内容次第では、遺言書の全てを相続することができます。

 

もっとも他の法定相続人にも財産を請求することができる権利(遺留分)がありますので、遺言書通りになるとは限りません。

 

またこれを無視して相続を行なった場合は、侵害された法定相続人は受贈者である孫に対して、遺留分侵害請求権を行使してトラブルになってしまう事例もありますので、生前のうちに慎重な話し合いが必要です。

養子縁組で相続した時の孫の相続分

孫を養子にした場合は、実子と同様の権利が付与されますので、孫の相続分は被相続人の子供の数によって変わります。

 

(例) 配偶者のいない被相続人において、被相続人の子供が2人いた場合のうちの1人が養子である場合、もう一人の相続人と2分の1の割合で遺産を相続します。

※ただし孫が養子の場合は、先に述べたように2割加算があります。

代襲相続で相続した時の孫の相続分

孫が代襲相続した場合でも、実質的に被相続人で言うところの自分の子供にあたりますので、孫の相続分は被相続人の子供の数によって変わります。

※なお前述した通り代襲相続の場合は養子縁組の場合と違って、2割加算はありません。

孫が遺産相続することのメリット

祖父母が孫に遺産を相続するメリットをご紹介しましたが、孫自身が遺産相続をすることで得られるメリットは何なのでしょうか?詳しく解説していきます。

メリット①:確実に遺産の恩恵を受けることができる

先ほど紹介した方法にあったとおり祖父母が遺言書を書置きしたり、孫が代襲相続をすることで多かれ少なかれ遺産を相続することができます。

 

自分の親に遺産が行くよりも直接自分に遺産が渡ることで孫も祖父母も、精神的に安心することができます。

メリット②:相続税の負担が無くなる

一定の金額を相続する場合は、基本的にどのような場合も相続税が発生します。

 

その相続税の基礎控除額の計算は、以下の算式となるため

  • 3,000万円 +(600万円×法定相続人の数)

養子縁組をするとさらに600万円が控除されるのです。

 

ただし複数人の孫を養子にすること自体は可能ですが、節税対策のため被相続人に子供がいた場合にカウントされる養子の数は1人まで、被相続人に子供がいない場合は2人までという制限がありますので気をつけましょう。

 

また生命保険金や損害保険金なども課税対象となりますが、

  • 500万 × 法定相続人の数

という計算で算出された値は課税されませんので覚えておくと便利です。

孫が遺産相続することのデメリット

もちろん、メリットだけではなくデメリットもありますのでご紹介します。

デメリット①:他の相続人とのトラブル

孫に相続することによって生ずる他の相続人とのトラブルが後を断ちません。

 

本来なら貰えるはずであった相続人から孫への請求で、孫がかえって不幸になる可能性があります。

 

またあまりに理不尽な遺産相続をした場合は、裁判沙汰になり遺族間の関係を二度と修復できない場合もあります。

デメリット②:相続税額2割加算が適用される

孫に相続させると相続税額の2割が加算されて適用されるので負担額が増えてしまうというものです。

 

というのも相続税法18条に「相続税を負担する人が、被相続人の配偶者や一親等の血族以外」であれば、相続税額が2割ほど増えることが決まっているのです。

 

これには孫も含まれますので2割加算の対象となります。

 

これは孫を養子とした場合でも同じであり、被相続人の子供の相続税を免れたことにより2割加算の対象となりますので注意しましょう。

相続以外で孫に財産を残す方法

教育資金の一括贈与の非課税制度を利用する

単に孫に相続する場合、2割加算が適用されてしまうことはご理解いただけたかと思います。

 

しかしこの教育資金の一括贈与を利用することで、非課税額を最大1500万円を限度として贈与することができます。

 

国税庁のホームページによると教育費には入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学試験の検定料、学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用などがあります。

もっともこの贈与の対象は、30歳未満の孫(or子)ですので、注意が必要です。

孫を保険金受取人とする生命保険に加入する

相続以外で孫に財産を残す方法として孫を保険金受取人にして生命保険に加入する方法があります。

 

難しい手続きもなく孫に遺産を残すことができます。

 

ただし「法定相続人の数×500万円」の控除が無いことや孫にも課せられる2割加算があり、かえって高くなる場合がありますので注意しましょう。

まとめ

今回は「孫に遺産相続をさせる方法」についてご紹介しました。

 

自分の遺産が確実かつ平和的に孫に相続してほしいと願う一方で、残された遺族の方は、どこか納得できないのも無理もありません。

 

亡くなられた方の身の回りの世話をしていた場合は尚更でしょう。

 

そのため遺族間同士のトラブルを避けるために、生前のうちに親族の方と話し合っておくことが大切です。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など