相続コラム
相続税の申告期限と納付期限!例外や間に合わない時の対応や延長方法
被相続人に多額の相続財産があった場合には相続税申告をする必要があります。
なんとなく、相続税は10ヶ月という知識は身についていても、申告なのか納付なのか、例外的に10ヶ月を越えて納税することはできるのか、間に合わない場合に延長ができるのか、詳しいことまでは知らないという方も多いのではないでしょうか。
このページでは、相続税の申告期限についてお伝えします。
相続税の申告期限と納付期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内
まずは相続税の10ヶ月以内という期間制限について詳しく確認しましょう。
相続税の申告・納付の期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
ポイントとしては、
- 申告・納付ともに10ヶ月以内に行うこと
- 10ヶ月の期間制限は相続開始があったことを知った日の翌日から計算する
以上の2点です。
まず、相続税法27条は、
「相続又は遺贈により財産を取得した者はその相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内に申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」
としており、申告書の提出を10ヶ月以内にする旨を規定しています。
また、相続税法33条は、
「期限内申告書を提出した者は、これらの申告書の提出期限までに、これらの申告書に記載した相続税額又は贈与税額に相当する相続税又は贈与税を国に納付しなければならない。」
としており、納付も10ヶ月の期限内に行なうべきことを規定しています。
10ヶ月の期限は、「相続の開始を知った日の翌日」から計算します。
相続の開始は、被相続人が亡くなったときとされていますので(民法884条)、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から計算します。
被相続人の臨終を看取る・葬儀に出席する・亡くなった連絡をその日のうちに受ける、というような場合には、死亡届が提出された翌日から起算することになるでしょう。
被相続人が死亡した日
被相続人が死亡した日は、
- 死亡届が提出された場合には、死亡届に記載された日時
- 普通失踪(民法30条1項)による失踪宣告があった日には7年の期間満了時
- 特別失踪(民法30条2項)による失踪宣告があった場合には危難が去った日
- 認定死亡(戸籍法89条)がされた場合には死亡したと認定された日
となります。
10ヶ月という期間は長い?短い?
相続や人の死亡に関する手続きとしては、
- 死亡届:7日
- 相続放棄・限定承認:3ヶ月
- 準確定申告:4ヶ月
といったものがあり、これらに比べると相続税申告の10ヶ月という期限は長いようにも思えます。
しかし、相続税申告については、遺産分割が終わっていることが前提であり、申告書の作成や添付書類の収集に労力を費やすため、10ヶ月という期間は相対的に短く、あっという間であるというのが私達税理士の感覚です。
10ヶ月という期限は実は短いということをお含みおきください。
10ヶ月の起算日が問題になるケース
以上の原則から、相続税申告の起算日が問題になる場合を確認しましょう。
- 1相続開始日を知らなかった場合
- 2二次相続が発生した場合
- 3相続人以外への遺贈の場合
- 4相続欠格に該当・推定相続人の廃除がされた場合
- 5申告・納付期限が土日祝日の場合
- 6停止条件付の遺贈によって財産を取得した場合
- 7胎児が相続人の場合
相続開始日を知らなかった場合
被相続人が過去に別の配偶者と結婚しており、その前婚で子を設けながら疎遠になってしまうケースがあります。
子は相続人であるにも関わらず、被相続人の死亡を知るのがずいぶん後になることがあります。
この場合10ヶ月の起算日は相続開始を知った日となります。
申告書に相続開始を知った日を記載する欄がありますが、念の為相続開始を知った日についての記録(例:相続人から通知を受けたときの通知など)を残しておくようにしましょう。
二次相続が発生した場合
二次相続とは、一時相続で相続人となった者が亡くなった後に起こる2回目の相続のことをいいます。
たとえば、
- 被相続人Aが亡くなり、妻Bと子C・Dが相続
- 子Cが亡くなり、その妻Eと子Fが相続
という相続があったとします。
このときに、子Cが亡くなって妻E・Fが相続をすることになりますが、Aが亡くなったことによって相続税申告が必要となった分については、Cが亡くなったことを知った翌日から起算します。
相続人以外への遺贈の場合
遺贈とは、遺言によって遺産を渡すことをいいます。
被相続人以外に遺贈をする際には、遺贈を受けた人は相続税申告をする必要があるのですが、遺言書が見つかって相続人から知らせてもらうまでは、相続開始したことを知らないこともあります。
このような場合には、被相続人が亡くなって自分が遺贈を受けていることを知った日から起算します。
相続欠格に該当・推定相続人の廃除がされた場合
法定相続人であっても、相続欠格に該当したり(民法891条)、推定相続人の廃除(民法892条)がされることによって、相続人ではなくなることがあります。
これによって、代襲相続が発生したり(民法887条)、相続の順位が変わることによって、新たに相続人になる人が発生することがあります。
この場合の起算日は、相続が開始して、かつ、相続欠格に該当・推定相続人の廃除がされて自分が相続人になったことを知った翌日です。
申告・納付期限が土日祝日の場合
申告・納付の期限が土日祝日の場合には、翌営業日が期限となります。
停止条件付の遺贈によって財産を取得した場合
遺贈をするにあたって、条件を記載することがあります。
条件には、ある条件が成立したときに効力が生じる停止条件と、ある条件が成立すると効力を消滅させる解除条件があります。
停止条件は、条件が成立したときに効果が発生するので、条件成立前には遺贈の効果が発生していません。
そのため、条件が成立して遺贈の効果が発生した日の翌日が起算日です。
胎児が相続人の場合
被相続人が亡くなったときに、被相続人の子が胎児である場合には、例外として権利能力が認められ、相続人になることができます(民法886条)。
この場合は、子が生まれて、親権者である母親が相続開始を知った日の翌日から期限を起算します。
なお、母親も共同相続人になる場合には、特別代理人の選任が必要ですので、特別代理人が相続開始を知った日の翌日から起算します。
相続税の申告期限における例外
相続税の申告期限は厳格で、例外として延長が認められるのは自然災害などにより申告が難しい場合が挙げられます。
過去には、東日本大震災が発生したときに延長が認められたほか、現在は新型コロナ対策によって延長が可能です。
ただ、新型コロナだからといってすべてが認められるわけではなく、たとえば感染症で入院をした場合、隔離のための施設に入ったような場合、外出を控える事情がある場合などに認められることがありその事情が終わるとすぐに申告しなければなりません。
相続税の申告期限・納付期限に間に合わない時の対応
では、たとえば遺産分割で争いになってしまい、遺産分割調停がはじまっており、相続税の申告・納付の期限に間に合わないときにはどのような対応をすれば良いでしょうか。
申告期限に間に合わない時の対応
上記のように遺産分割調停が終わっていない場合には、各人の相続分の計算ができません。
これらが原因で申告期限に間に合わない場合には、一旦法定相続分で分割した場合の仮の計算で申告書を作成します。
後に遺産分割が終わってから、更正の請求を行なうことで、本来の計算にしたがった相続税の差額を取り戻すことが可能です。
遺産分割協議が終わっていない場合、小規模宅地等の特例や配偶者控除といった税制優遇の措置を利用することができません。
その結果、払いすぎている相続税が多額になることもあり、更生の請求で取り戻すことができます。
更生の請求をすることができるケースについては相続税法32条1項において
- 遺産分割が間に合わず一旦相続分の割合で申告をした場合
- 認知の訴え・推定相続人の廃除・相続回復請求権・相続放棄の取消などで相続人に異動が生じた
- 遺留分侵害額請求によって支払う額が確定した
- 遺言書が発見された・遺贈が放棄された
などが規定されています。
遺産分割が間に合わない場合は、一旦法定相続分で申告する際に、3年以内の分割見込書を提出する必要があります。
更生の請求は4ヶ月以内に行なう必要がありますので、こちらも併わせて期限に注意しましょう。
納付期限に間に合わない時の対策
相続税の納付は、納付期限までに一括で金銭にて支払う必要があります。
この納付期限に一括で支払いできない場合の例外として、
- 物納
- 延納
の2つがあります。
物納とは、金銭ではなく、相続をした物を納付することによって、金銭の支払いに替えることです。
延納とは、本来一括で支払う金額を、分割して払っていくことです。
いずれも一括納付が難しいなどの正当な理由が必要がなので注意しましょう。
相続税の申告期限を過ぎてしまうデメリット
相続税の申告・納付の期限を過ぎてしまうと、様々なデメリットがあります。
- 1控除・軽減の制度が受けられない
- 2無申告加算税
- 3重加算税
- 4延滞税
- 5故意の申告書不提出
- 6無申告犯
- 7税理士に支払う報酬が高くなる可能性
控除・軽減の制度が受けられない
相続税には、税負担を軽くするための控除・軽減の制度がたくさんあります。
例えば、相続税の配偶者控除(税額の軽減)のような制度を利用すれば、配偶者は相続税を負担しないことがほとんどです。
しかし、相続税の申告期限を過ぎてしまうことで、控除・軽減の制度の利用ができなくなるケースがあります。
代表的なものとしては配偶者控除がこれにあたります。
なお、宅地の評価を最大80%下げることができる小規模宅地等の特例については、期限後申告でも適用することができます。
無申告加算税
期限内に相続税申告をしなかった場合には、無申告加算税が課されます。
- 本来納付すべき税額の50万円以内の部分:15%
- 本来納付すべき税額の50万円を超える部分:20%
が加算されます。
重加算税
無申告が悪質であると評価されると、重加算税として40%が加算されます。
延滞税
本来の納付期限を経過すると延滞税が課されます。
- 納期限の翌日から2ヶ月以内の部分:年2.5%
- 納期限の翌日から2ヶ月を超えた部分:年8.8%
※(2021年1月1日から2021年12月31日までの間)
故意の申告書不提出
期限内に申告書を提出せずに相続税を免れた場合には、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が併科されます。
無申告犯
正当な理由なく期限内に申告書を提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。
税理士に支払う報酬が高くなる可能性
相続税申告を期限後に申告する際に、税理士に依頼をすると、税理士に支払うべき報酬が高くなることがあります。
これは、なるべく急いで申告を行なう必要があるためで、期限内でも申告期限まで時間がないような場合には、報酬額高くなることが多いです。
まとめ
このページでは、相続税の期限についてお伝えしました。
相続税申告の10ヶ月という期間は長いようであっというまに過ぎてしまい、過ぎるとデメリットやペナルティなどが多数あります。
なるべく早い段階で税理士に相談・依頼することをおすすめします。