相続コラム
相続税の税額控除6種類を解説!他に控除ができるものも紹介
相続税を計算するときには、控除できるものがいくつかあります。
税額控除を知らないと、不要な税金を払ってしまうことにもなり兼ねません。
相続税の計算の仕組みと税額控除を正しく理解していれば、いざ相続が発生したときに慌てずに済みます。
相続税の税額控除とは
「控除」とは、「差し引く」という意味です。 税額控除とは、算出された税額(相続税)から一定額を差し引くことを意味しています。
税額控除には6つの種類があり、要件に該当すれば控除を受けられます。また複数の税額控除に該当する場合は、つぎの順に適用します。
- 1贈与税控除
- 2配偶者控除(配偶者の税額軽減)
- 3未成年者控除
- 4障害者控除
- 5相次相続控除
- 6外国税額控除
参照:国税庁:No.4152 相続税の計算 4.各人の納付税額の計算
また、税額控除のほかに、相続税を計算するうえで、重要なのが基礎控除です。
「控除」という同じ言葉を使っていても、基礎控除と税額控除とは意味合いが少し違います。
税額控除は、税額から一定額を控除することですが、基礎控除は税額を算出する前の課税価格を計算する段階で控除できる金額です。
相続税の基礎控除額は、
- (3,000万円 + 600万円 x 法定相続人の数)
で算出します。
相続税の計算手順
相続税の計算手順と、どの段階で何が控除できるのか簡単にまとめました。
計算手順 | 控除できる項目 | |
ステップ1 | 相続財産の課税総額を計算する | 基礎控除額、債務、葬儀費用等 |
ステップ2 | 相続税の総額を計算する | |
ステップ3 | 各相続人の相続税を計算する | 6つの税額控除 |
ステップ1では、みなし相続財産や、相続時精算課税による贈与財産など、課税総額に加算すべきものを算入し、基礎控除額をこの段階で控除します。そして課税される総額をだします。
ステップ2では、ステップ1で算出した課税総額にもとづき相続税の総額を算出します。
ステップ3では、全体の相続税を、個人が取得した財産の割合で按分し、相続人それぞれの税額を計算します。6つの税額控除に該当するものがあれば、この段階で差し引き、最終的な、各相続人の税額を算出します。
相続税の6つの税額控除
それではステップ3で控除できる6つの税額控除について説明していきます。
- 1贈与税控除
- 2配偶者控除(配偶者の税額軽減)
- 3未成年者控除
- 4障害者控除
- 5相次相続控除
- 6外国税額控除
1.贈与税額控除
被相続人(亡くなった人)から、相続や遺贈などにより財産を取得した人が、相続の開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていて、その贈与に対し贈与税を払っていた場合、その額を相続税から控除できます。
なぜ一旦払った贈与税が控除されるのかというと、相続税法上、被相続人から相続開始前3年以内に受け取った贈与財産は、相続財産に加算することになっているからです。
つまり、贈与税を払ったにもかかわらず、相続税の課税対象となると、二重課税になってしまうため、過去に払った贈与税を、相続税から差し引いて清算します。
2.配偶者控除(配偶者の税額軽減)
被相続人の配偶者に適用される控除です。 配偶者が取得した相続財産は、つぎのどちらか多い金額まで、相続税はかかりません。
- ①1億6千万円まで
- ②法定相続分相当額まで
たとえば、法定相続人が配偶者と子の2人で、亡くなった人の課税財産が6億円だとします。
配偶者の法定相続分は1/2ですので、②の適用により3億円までは課税されません。もし、課税価額が3億円なら、法定相続分は②によると1.5億円ですが、①>②ですので、①を採用し、配偶者については、1.6億円までの相続財産について、相続税はかからないことになります。
法定相続人が配偶者だけの場合は、法定相続割合が100%なので、配偶者の相続財産がいくらであっても、相続税はかかりません。
配偶者の税額軽減の適用要件
- 法律上の婚姻関係があること(婚姻期間に制限なし)
- 相続税の申告期限までに、配偶者の相続する財産が確定していること
(申告期限までに遺産分割が確定できないときは、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、3年延長が可能)
なお、この税額軽減措置によって、配偶者の相続税の納付額がゼロになっても、相続税の申告はしなければなりません。
参照:国税庁 No.4158 配偶者の税額軽減 1.制度の概要
3.未成年者控除(未成年者の税額控除)
20歳未満の法定相続人が、相続、遺贈により財産を取得した場合、その人が20歳になるまでの年数x10万円が、相続税から控除できます。
- 未成年者控除額 =(20歳 ー 相続時の年齢)x 10万円
控除対象の年齢に端数が出る場合は、繰り上げます。(例:20歳まで3年4カ月なら4年)
なお、控除額が、その相続人の納めるべき相続税額より大きいときは、控除しきれない額を、つぎの順に控除することができます。
- 本人から税額控除 → 扶養義務者から税額控除 → 次回の相続のとき税額控除
ちなみに、2022年4月より成人年齢が18歳へ引き下げられることに伴い、未成年者控除の対象者は18歳未満になります。
4.障害者控除(障害者の税額控除)
障害者である法定相続人が、相続、遺贈により財産を取得した場合、その人が85歳になるまでの年数x10万円が、特別障害者の場合は年数x20万円が、相続税から控除できます。
- 障害者控除 =(85歳 ー 相続時の年齢)x 10万円(*特別障害者は20万円)
未成年者控除と同様に、対象年齢に端数が出る場合は、端数を繰り上げます。
障害者控除の適用要件
- 相続税の申告書を提出する時点で、障害者手帳を受けていること、または申請中であること
- 医師の診断等により、相続開始の時点において、明らかに障害者手帳の交付に値する障害があると認められること
なお、未成年者控除同様、控除額が本人の相続税額より大きい場合は、控除しきれない額をその扶養義務者の税額から差し引き、それでも控除しきれないときは、次回の相続のときに控除することが可能です。
5.相次相続控除
10年以内に2回以上相続が発生して、そのどちらともに相続税を払った場合、税負担を軽くする目的で、1回目の相続税の一定額を2回目の相続税から控除するというものです。
下図で説明します。
1回目の相続税の納付は、祖父が死亡し、父が祖父の財産を相続したとき。
2回目の納付は、1回目の相続から10年以内に父が死亡し、子が父の財産を相続したとき。
このような場合に、1回目で払った相続税の一定額を、2回目の相続のときに発生する相続税から控除できるというものです。
出典:国税庁 No.4168 相次相続控除 1 相次相続控除
6.外国税額控除
相続や遺贈で外国の財産を取得した人で、その外国で相続税に相当する税金を払った場合には、二重課税防止のため、その外国で払った相続税に相当する額を日本で払う相続税から控除できるものです。
ただし、制限納税義務者(*1)が取得した外国の財産は、日本の相続税法上では、課税対象ではありません。
したがって、外国財産にかかる相続税に相当する税金を、外国で払ったとしても、二重課税に該当しないため、外国税額控除は受けられません。
(*1)相続した国内の財産に対してのみ相続税納税の義務を負う人
他に控除ができるもの
6つの税額控除の他に、相続税を計算する過程で控除できるものがあります。
- 1死亡保険・死亡退職金
- 2弔慰金
- 3葬式費用
- 4その他の債務控除
死亡保険・死亡退職金
死亡保険金や死亡退職金には、それぞれ非課税枠が設定されています。
亡くなった人の死亡保険金や死亡退職金を相続人が受け取ったときには、受け取った保険金額や退職金額の範囲内で、つぎの計算式で求められる金額を相続財産から控除できます。
- 死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額 = 500万円 x 法定相続人の数
また、相続税法上、非課税限度額を計算する上で、以下の人は法定相続人に含めます。
- 相続を放棄した人
- 被相続人に実子がいる場合は、養子は1人まで
- 被相続人に実子がいない場合は、養子は2人まで
- 特別養子縁組をした養子(実子扱い)
- 再婚の場合、配偶者の実子で被相続人の養子となっている人(実子扱い)
- 被相続人の孫が代襲相続人で、被相続人の養子となっている人(実子扱い)
弔慰金
被相続人が死亡したことで、相続人が被相続人の勤務先から受け取る弔慰金がある場合も、その一定額を相続財産から控除できます。
控除額は、死亡の理由により異なります。
- 業務上の死亡の場合:死亡時の給与(賞与は除く)x 36か月
- 業務外の死亡の場合:死亡時の給与(賞与は除く)x 6か月
葬式費用
相続人が、被相続人の葬儀費用を負担した場合は、相続財産から控除できます。
控除ができるものと、できないものがありますので確認してください。
控除できる項目
- 通夜、葬儀、火葬にかかった費用
- お寺へのお布施、戒名料
控除できない項目
- 香典返しにかかった費用
- 初七日、四十九日などの法要の費用
- 死体の解剖費用
- 墓地、仏具の購入費用
その他の債務控除
相続や遺贈で財産を取得した人が、亡くなった人の借金や、未払の税金をなどを支払った場合にはその額を、相続財産から控除できます。
控除ができる債務
- 借入金
- 不動産購入代金の未払い金
- 未払いの医療費
- 未払いの税金(所得税・住民税・固定資産税など)
- 事業上の債務
など
控除できない債務
- 遺産分割協議や相続税申告を依頼した弁護士や税理士への費用
- 相続した不動産の登記費用
- 遺言執行費用
など
まとめ
相続税は、課税価格を計算する段階で控除できる基礎控除額や債務費用と、税額から直接控除できる6つの税額控除と、大きく2つに分けて考えます。
税額控除の要件に該当して、その控除額を相続税から控除してもなお、納税すべき額がある場合は、他の税額控除の要件に該当していれば重ねて控除を受けられるため、相続税の減税に大きく寄与します。
相続税の基本的な仕組みをおさえて、無駄な税金を払わなくてすむよう、適用できる控除は最大限に活用しましょう。
沖田豊明 プロフィール
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など