相続コラム

遺産相続で期限のある手続き・期限のない手続き一覧!

相続での問題と聞くと何を思い浮かべますか?おそらくは遺族間での相続争いではないでしょうか?

 

しかし近年では相続において遺族間でのトラブルはもちろんのこと、手続きの期限に関する事例も多く発生しています。

 

特に手続きの場合、期間経過後に手続きを行なってしまうとさまざまなデメリットが発生してしまいます。

 

そこで今回は、手続きの期限の有無についてや期限内に終わらない場合に起きるデメリットまで多岐にわたってご紹介します。

遺産相続で期限のある手続きとは?

遺産相続においても期限のある手続きは以下の7つが挙げられます。

 

  • 1相続放棄
  • 2限定承認
  • 3準確定申告
  • 4相続税の申告・納付
  • 5遺留分侵害額請求
  • 6死亡保険金の請求
  • 7相続税の還付請求

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続放棄

相続放棄とは、亡くなった方の財産(資産・負債)を相続する権利を利用しないことを言います。

 

相続放棄の期限は「自己(相続人)のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄する旨を伝えなければならない」と民法915条1項により規定されています。

 

もっとも3ヶ月以内に決めることができない場合は、家庭裁判所に相続放棄期間の延長を申請することで3ヶ月ほど期間の延長をすることができます。

 

また再転相続(相続人が相続放棄などをする前に死亡してしまった場合に、次の相続人が相続するという意味)を行う場合ですと期限は【次の相続人が知った時から3ヶ月】に変更されます。

限定承認

限定承認とは、相続人が亡くなった方の債務を承継することで不利益を被る場合を避けるために、相続において自己の利益になる財産(積極財産)の範囲内でのみ債務を弁済し、限定的に相続を承認することをいいます。

 

限定承認の期限は、相続放棄と同じく「自己(相続人)のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄する旨を伝えなければならない」と民法915条1項により規定されています。

準確定申告

準確定申告とは、相続人全員が確定申告を行う前に亡くなった人に代わって行うその方の生前の所得税についての確定申告のことを言います。

 

準確定申告の期限は、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して4カ月以内です。

 

(所得税法124条) 相続開始を知ったその日ではなくその翌日から起算している点に注意です。またメリットとして相続人は準確定申告をすることにより還付金(過剰に支払ってしまった税金)を受け取れる可能性があります。

相続税の申告・納付

相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければいけません。

 

例えば、2月1日に死亡した場合にはその年の12月1日が申告期限になります。もっとも期限が土、日曜日、祝日の場合は、これらの日の翌日が期限となり数日ではありますが延長します。

 

申告期限までに申告を行わなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合がありますのでご注意ください。

※こちらも知った日の翌日から起算している点に注意が必要です。

遺留分侵害額請求

遺留分とは、法定相続人が持つ最低限の金額を相続できる権利のことを言います。

 

そして遺留分侵害請求権とは、不平等な遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された法定相続人が、侵害した人に対して行う遺留分の取り戻し請求のことを言います。

 

この遺留分侵害額請求権を行使することにより、自らの権利を回復することができるのです。

 

遺留分侵害額請求権の期限は、遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内です。

 

また相続開始の時から10年以内に行わない場合も時効によって消滅します。(民法1048条)

死亡保険金の請求

死亡保険金とは、被保険者(生命保険に加入した人)が死亡した場合に受取人が受け取ることができるお金のことを言います。

 

この死亡保険金の請求の期限は、保険法95条に「死亡保険金を行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」とあります。

 

つまり被保険者が死亡した日から3年以内と言うことになります。

 

受取人は被保険者が加入していた生命保険会社に請求することで、死亡保険金を受け取ることができます。

相続税の還付請求

相続税の還付請求とは、過去に払い過ぎてしまった相続税を手続きによって国から返還してもらうことを言います。

 

相続税申告を行なった税務署に還付申請を(更生の請求)行うことで相続税の還付請求をすることができます。

 

この相続税の還付請求の期限は、相続開始の時から(被相続人が死亡した時から)5年10ヶ月以内、また納税申告をした時から5年以内になります。

 

以上の期限を短い順にまとめますとこうなります。

相続放棄&限定承認 相続人が相続の開始があったことを知った時から3ヶ月
準確定申告 相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して4カ月
相続税の申告・納付 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月
遺留分侵害請求 遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
死亡保険金の請求 被保険者が死亡した日から3年以内
相続税の還付請求

相続開始の時から(被相続人が死亡した時から)5年10ヶ月
納税申告をした時から5年

 

遺産相続の期限のない手続きとは?

期限のある手続きについてご紹介しましたが、期限のない手続きもいくつか存在します。 詳しくご紹介します。

 

  • 1預貯金等の解約・名義変更
  • 2遺産分割協議・調停・審判
  • 3不動産の相続登記

預貯金等の解約・名義変更

預貯金等の解約・名義変更には、期限がありません。 しかし時効によって消滅することがないからといって放置していると休眠口座(10年以上取引されていない預金)となってしまいます。

 

そうなってしまいますと、その預金は金融機関から預金保険機構に移され、最終的には支援団体の資金に変わりますので注意が必要です。

遺産分割協議・調停・審判

遺産分割協議とは、相続財産を相続人全員で遺産をどうするかなどの問題を解決するための結論を出す話し合いのことを言います。

 

この遺産分割協議の調停などにも期限がありません。言ってしまえば10年後でも遺産分割協議をすることができるのです。

 

ただし放っておくと相続人間でのデメリットも発生してしまう場合がありますので早めに解決しておくと良いでしょう。

不動産の相続登記

不動産の相続登記にも期限がありません。しかしこれも放っておくと遺産分割協議と同じで相続人間でのトラブルや相続登記で必要な亡くなられた方の住民票を取得することができなくなります。

 

そのためできるだけ速やかに相続登記をしておくことをオススメします。

※2024年には法改正がなされ、「相続開始を知った時から3年以内」に相続登記をしていないと時効によって消滅するようになります。

相続手続きが期限内に終わらない場合のデメリット

 

  • 1税金の軽減制度などが利用できなくなる
  • 2新たな相続が発生してしまう可能性がある
  • 3相続税の延滞税がかかる
  • 4相続財産が利用できなくなる場合がある

税金の軽減制度などが利用できなくなる

相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヶ月以内に相続税の申告、納付を行わない場合はさまざまな税金の軽減制度がなくなってしまいます。

 

具体的には、

  • 相続税の物納
  • 小規模宅地等の特例
  • 農地等の納税猶予
  • 障がい者の税額控除
  • 配偶者の税額軽減の特例

などが利用できなくなってしまいますので相続人の方は注意が必要です。

新たな相続が発生してしまう可能性がある

相続手続きを期限内に行わない場合は、別に相続人が亡くなりまた新たに相続(相次相続)が起きてしまいます。

 

相次相続が起きてしまうと相続人とのトラブルや相続手続きがさらに難しくなりますので相談料や依頼料などの費用が別に発生してしまいます。

 

唯一の救いとしては相次相続の場合に適用される相次相続控除(相続発生から10年以内に新たな相続が起きた場合に相続税の中から一定額が控除される)があることです。

相続税の延滞税がかかる

相続税を期限内に納めない場合には、延滞税などが課税されてしまいます。

国税庁のホームページではこのように記載されています。

 

(1) 納期限の翌日から2月を経過する日まで 原則として年「7.3%」

ただし、令和3年1月1日以後の期間は、年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合となります。

 

なお、具体的な割合は、次のとおりとなります。

  • 令和4年1月1日から令和4年12月31日までの期間は、年2.4%
  • 令和3年1月1日から令和3年12月31日までの期間は、年2.5%

 

(2) 納期限の翌日から2月を経過した日以後 原則として年「14.6%」

ただし、令和3年1月1日以後の期間は、年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合となります。

 

なお、具体的な割合は、次のとおりとなります。

  • 令和4年1月1日から令和4年12月31日までの期間は、年8.7%
  • 令和3年1月1日から令和3年12月31日までの期間は、年8.8%

参照:国税庁 延滞税の割合

 

納期しなければいけない日の翌日から2ヶ月を過ぎたか否かで課税額が大きく変わることが分かると思います。相続人の方はなるべく早く相続税を納めるのが良いでしょう。

相続財産が利用できなくなる場合がある

期限内というわけではありませんが長期間、相続手続きを行わなかった場合にはその相続財産を利用できなくなる場合があります。

 

というのも被相続人の財産は、共有財産となり相続人全員の同意が必要です。

 

しかし長期間相続手続きを行わない場合は、他の相続人の1人でも「今更何をするんだ?」と考えてしまうとその時点で共有財産に必要な「全員の同意を得る」という条件の達成が極めて難しくなります。

 

そのため自分の思い通りにはいかない可能性が高いです。

まとめ

今回は「遺産相続で期限のある手続き・期限のない手続き」や「相続手続きが期限内に終わらない場合のデメリット」をご紹介しました。

 

相続が起きると相続手続きを行わなければなりません。そこで本記事では相続手続きの期限についても一覧表でまとめました。

 

何をしないといけないのか分からないという方やお仕事などでなかなか手続きが進まないという方はそれぞれの期限を理解しておき、期限の短いものから手続きを行うことをオススメします。

監修者 代表 不動産鑑定士・税理士
沖田豊明 プロフィール
講師 代表 不動産鑑定士・税理士 沖田豊明
平成11年に不動産オーナー様・不動産税務の専門事務所として、埼玉県川口市に開業。
不動産と不動産の税務の専門家の両立場から不動産オーナー様の賃貸経営や相続税の申告・税務アドバイスを行っている。
また、最近は自らも不動産賃貸経営を行い、その実務経験を基に、サラリーマン大家さんの不動産投資に関する税務申告やアドバイスを行っている。
円滑な相続・資産承継を目的とした家族信託についても手掛けている。
各税理士会の支部研修等における講師業務も年間約50件程度行っている。
著書:『「地積規模の大きな宅地の評価」の実務-広大地評価の改正点と判例・裁決例 』
共著:『社長の節税と資産づくりがこれ一冊でわかる本』/『相続手続きと生前対策ハンドブック』など